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桜の下には満開の笑みが咲いていた。
俺は、その笑顔を守りたいと思った。





全員そろってのオフは久しぶりだった。
ヨアヒム・ギュンターと一応の決着が付いてからは初めてだ。
ちょうど桜が満開と言うことだったのでみんなで出かけることになった。
花見なんて警備隊時代に一度きりだ。
なぜ一度きりかと言えば、酔っ払いの介抱に明け暮れる羽目になると理解したから。
俺は言っても酒はそこそこ強いし顔にも出ないので必然的に介抱役にさせられる。
可愛い女の子相手でもダメージがでかいのに、野郎がげーげー吐いてるなんてみっともなくて、かと言って放っても置けないし非常に困った。
その点で言えば支援課の面子なら安心だ。
普段フラストレーションを溜めてるやつもいないし、飲めと煽るやつもいない。(煽るとしたら俺の方だ)
酒は持ってきたがそれも俺がちょっと飲む分だけ。
ロイドやお嬢も付き合いで舐める程度のつもりだろう。

アルモリカ古道の休憩所までやってくると、壮観な光景が広がっていた。
所狭しと並ぶ桜、桜、桜。
ど平日なこともあって人影はまばらだ。

「きゃは、おはなー!すごいのー!」
「これは、凄いですね」
「はは、隠れた名物みたいなものだからな」
「昔おじいさま達と来たことがあるけれど、その時より桜が伸びているみたい。凄いわね」

各々、感想を口にしながら椅子に座ろうとしていた。

「待てよ、椅子で花見するつもりか?」
「あら、違うの?」
「せっかくレジャーシート持ってきたのに、そりゃねえだろ」
「桜を下から見上げる、そういう趣向ですか?」
「そうそれ!ティオすけ分かってるじゃねえか」
「どうも、でもランディさんはお酒が目当てでは?」
「それは言わない約束だぜ」

とか何とか言っていると、キー坊がロイドを引っ張って早々に桜の下に走っている。
枝ぶりも悪くない、割と背の低い桜なので座ってみるにはなかなか良いのではないだろうか。

「キー坊は良いとこ見つけるなあ」
「えへへ、キーアじょうず~?」
「ああ、上手だ」

ぽふぽふ頭を撫でると、またえへへと笑って足に抱きついてくる。

(親ばかになっちまう気持ち、分かるなあ)

ちょっとジーンと来る。
こんな可愛い子が子供だったら本当に目の中に入れても痛くない。
可愛さのあまりよしよしと撫でていると、女性陣からおもむろにツッコミが入る。

「ランディさん顔にしまりがないです」
「ふう、いくら女の子好きとはいってもロリコンにはならないでね」
「ちょ、ひどくね?何で俺だけ?なあロイド?」
「え?えっとそうだな、キーアは可愛いよな」
「だろ?仕方ないよな」
「それにしてもキーアのなつき方はロイドさんが一番ですが、ランディさんもなかなかのものだと・・・やっぱり普段の行いですか」

うぐ、それは何を指してるのかな?ん?
女遊びって言いたいわけ?
でも俺は大人だからそのくらいスルーするぜ。

「ティオすけ~、なんか今日は辛らつだな。焼きもちか?ん?」

そう言ってキー坊にするのと同じように、ティオすけの頭を撫でる。
澄ました顔をしているが、心なしか嬉しそうだった。
以前は子ども扱いしないでくださいと言われたものだったが。慣れたのか。
ロイドと言い、ティオすけと言い、結構おれの頭ぽんぽんは人気だと思う。
お嬢だけはそうそうする機会もないので、今度機会があったら試してみたい。
桜の下でレジャーシート広げて、さて宴会だと言う時に、意外な人物が通りがかった。

「あっれー、ロイドくんたちじゃない」
「どうも、ご無沙汰してます」

エステルとヨシュアだった。
二人は笑顔で駆け寄ってくる。

「なになに、お花見?」
「ああ、久しぶり。今日は久しぶりのオフだから、皆で来たんだ」
「ふーん、・・・ねえヨシュア?」
「それは僕じゃなくてロイドくんたちに聞いてみたら?僕は良いよ」
「んじゃ決定ね、ね、良ければ私達も混ぜてくれない?」
「え、でも仕事じゃないのか?」
「いーのーいーの、夕方までにパン屋さんに蜂蜜を届けるって話だから。他は特に依頼も入ってないし」
「そういうことなら、是非」
「ホントにー?ラッキー!」

そんなこんなでとんだ大所帯になる。
レジャーシートがでかくて助かった。
みな思い思いに桜を見てはきれいだとか、エステルとお嬢は年が同じなこともあってか世間話に花が咲いている。
ティオすけはキー坊と魔道杖を使って魔法使いごっことかしている。危なくない程度にしろよ。
ヨシュアは結構いける口らしい。俺と酒の話で盛り上がる。

「知り合いにすごくお酒が強い人がいて」
「へえ、男か?」
「男性もいるんですけど、それ以上に強い女性で。テキーラの瓶を空にしてもまだ飲みます」
「へええ、美人か?」
「そうですね」
「そりゃ一度会ってみたいもんだな」
「リベールに来る機会があったら是非。ランディさんなら相手が務まるかもしれません」
「はは、そりゃ光栄だ・・・おっともう酒が無いな、こんな事ならもっと持ってくるんだったぜ」

そう言ってふと視線をみっしぃのバッグに移すと、ロイドがその脇でぼんやりとみんなの姿を見ている。
やべ、置いてきぼりにしちまったかな。
声をかけようとするとその前にロイドと目が合う。
彼はにっこり笑って、無言で良いよ気にしないでと言うようだった。
そうなんだよな、こいつはそういうやつだ。
周りの空気を読んで、一人でも楽しめる。
でもそれって寂しくないのか?
俺らの自慢のリーダーは戦闘や捜査ではいつだって先陣を切って走っていくくせに、それ以外の場面では控えめだ。
最初は固いやつ、と思っていたのだが、その空気は邪魔にならない居心地の良さがある。
おれはヨシュアがエステルたちと喋り始めた頃を見て、ロイドの隣にどかっと腰を下ろした。

「よ、飲んでるか?」
「ん、まあそれなりに」
「酒切らしちまった」
「もっと持ってくれば良かったな」

ああ、と生返事をして、皆の様子を見渡す。

「平和だねえ」
「はは、おれも同じことを思ってたよ」

ロイドは笑ってコップに残っていた酒を一気に飲み干す。
おいおい、一気なんてするなよ、そんなに強くねーだろ。
まあ果実酒で酔わないか。

「こう平和だとさ、前のことがまるで無かったみたいだ。キーアも最初から支援課にいたみたいだし」
「そうだなあ」

手元にあったジュースを飲む。甘い。
違う味も持ってくるんだった。
ロイドは少し思案顔で、やがて口火を切った。

「ランディは、ヨアヒム先生と戦ったあと俺たちは全能じゃない、全てがうまくいくわけないって言ったよな」
「ああ」
「本当にその通りでさ、でもベストじゃないけど上出来だったってのも本当だって、皆の今の様子を見て思ってた」
「誰一人欠けることなく・・・それってすげえことだからな・・・」

猟兵時代は欠けるなんて当たり前だった。
俺は出来うる限り味方の数を減らさないように、確実に敵を仕留めることこそ大切で、それから考えれば敵を、ヨアヒムを仕留めた時点で俺なんかは満足していた。
ただ、気持ちは分からないではないので

「俺にだってそう言う時期はあった」

と、思わず言葉が漏れた。

「え、どういうこと?」
「う、え、あ、ああ、思わず、な」

苦笑して、ジュースを一口飲む。

「猟兵時代の事なんだがな」
「あ・・・うん」

ロイドは少し目を下に向けた。
気にしたかな。まあ、良いか。ここまで喋って止めるのも気持ち悪い。

「俺は敵を仕留めるんじゃなくて生きて捕まえろって言われてな」
「うん」
「でも、それは出来なかった。自殺しやがった」
「そうか・・・」
「しかもそれが俺のミスでな、うっかりしてたんだ。結果は、まあ、それでも良しってことだったんだが、ベストに持ち込めないことに、まあ落ち込んだ」
「ランディ・・・辛い思い出じゃないのか?」
「はは、やぶ蛇だったかね」
「聞いてごめん」
「お前は固いなあ、そんな気にしてねえって」
「ランディは、・・・あ、気に障るかもしれないけど、」
「なんだ?」

「その、時々無理して笑うから」

笑おうとして、笑えなかった。
ロイドが真っ直ぐに見つめてくるもんだから。
時間が止まった気がした。

キー坊の声が耳を通り過ぎていく。
ティオすけとエステルの笑い声が聞こえた。
ティオすけが声を上げて笑うなんて珍しい。
お嬢は少量でも酔うらしい。そして酔うと少し大胆になるのか、ヨシュアに絡んでいるようだった。お嬢のくせに。

しばらく沈黙が続く。
俺はごまかしの言葉も考えたが、どうしてもこの沈黙の後では間が抜けてしまう。

「お前って・・・、本当、鋭いって言うか、・・・天然の力かね」
「やっぱり無理してるんだな」
「時々ってのは誰にでもあるだろ」
「おれはランディに心から笑ってて欲しいと思う」

おお、何か背景に後光が見える気がする。
くさい台詞を吐いてもこれってすげえな。

「じゃあ、俺が笑えるように手伝ってくれるか?」
「良いよ、何すれば・・・―――」

そこに急な突風が吹いてくる。
桜が風に呑まれて花びらを舞い上がらせた。
体にふわふわと当たって、俺たちは花びらにまみれた。

「はは、すげえ風だったな」
「うん、あ、ランディ花びらついてる」
「お前もな」

お互い頭をぱっぱとはらうと大量に花びらが落ちてくる。

「ふふ、なんか、楽しいな」

ロイドは満面の笑みで花びらを俺に投げてくる。
花びらは俺の手の平に落ちて、動きを止める。
その笑顔は俺を笑わせるには十分だった。
自然と、口角が上がっていく。

「・・・何もしないで、そうして笑ってろ」
「え?」
「そうすりゃ、俺も笑ってられるよ」
「おれが笑うだけで良いのか」
「ああ」

ごろりと寝そべると、ロイドは顔を覗き込んでくる。
キス、してえなあ。
ロイドは笑ったまま、俺に告げる。

「ランディの笑顔はおれが守るよ」

そうして、周囲をチラッと見てから、ロイドは軽く俺の唇にキスしていった。
意外と大胆なやつ。彼は何事も無かったように、またふふと笑った。
知ってるか?
お前だって時々無理して笑ってるんだぜ。
俺の隣にいる間は、そんなことが無ければ良いって、そう思う。
なのに、俺だってお前の笑顔を守りたいのに、励まされた上に先を越された。

「やっぱ天然には敵わねえなあ」


桜が、また風に乗せられて舞い散った。
この平和な時、彼がしばらくは心底笑っていられるだろうと思うと、自然と自分も笑みが浮かんだ。
 
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