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ランディと思いが通じ合ったのは良いが
その後何も無い。

もう、付けられた跡も薄くなっている。

おれ、おしえてって言ったんだけどな・・・









午前7時。
窓からは朝の光がさんさんと降り注いでいる。

「おはよう」

最近はランディの部屋で寝ることが多くなった。
隣に好きな人が寝ていると言うのはすごく落ち着く。

「ん、・・・はよ」

軽いキス。
ランディはくしゃくしゃの髪のままおれに朝の挨拶をしてくる。
最初は恥ずかしかったのが段々薄れて当たり前になっている
ぼさぼさなおれの髪を少し梳くように頭を撫でられた。

「もっかい、良い?」
「ん」

でもあの日以来何も無い。
ただ一緒に寝て、キスをする。
体に触れられたのは、この間きりだ。
ランディはおれの憂鬱な気分など知らず、ひょいとベッドから降りると髪を梳いて束ねている。

「なあランディ」
「んん?」

口に結い紐をくわえたままランディはこちらを向いた。

「今日は支援要請多いかな」

しかしいざそんなことを聞こうと思うと、やはりためらわれる。
口から出たのはどうでも良いことだった。
ランディはきゅっと結い紐を髪に巻くと、ベッドに近づいてきて腰を下ろした。

「さあなあ、多くは無いと思うが。珍しくやる気が出ないか?」
「いや、そんなことないけど」
「その割には精彩を欠いた顔してるな」

前髪を少し払って、額に手を当てる。

「熱はなさそうだけど、風邪か?」
「そうだな、少し風邪気味かも」

そんなことはないのだけれど、そういうことにしておく。
おれの下らない悩みなんかでわずらわせるくらいなら、風邪になったほうがよほど良い。

「今日の支援要請次第では休むのも良いかもな」

そう来るとは思わなかった。

「そんなことできないよ」
「ばーか、休める時に休んどくのもプロだろ」

でこぴんを額に食らった。
ランディは笑うと、またキスをする。
一緒に寝るようになって気づいたけれど、ランディはキスが好きらしい。
寝る前に1回、ベッドに入って何回も、そして朝起きてからまた。

「ランディ・・・」
「ん、なんだ、こうか?」

深い口付け。
そうそう。それ好きだな。
って違うだろ、おれ。
くちゅくちゅ音がしてるし気持ち良いけど、本当に欲しいのはこれじゃない。

「お前ってさ、キスした後、妙に色っぽいよなあ」
「そ、そう?」

じゃあなんで手を出してこないんだよ。
その一言が言えない。
もう一度酒の力を借りるのもありだろうか、とちらりと思うが、ランディはそう言うのは好きじゃないだろう。
長いキスを終えて、お互いの舌から糸が伸びる。

「っ・・・は」
「んじゃま、今日も朝からロイド分を吸収したことだし、いっちょやるかねえ」

ランディは、おれのことが欲しいんじゃなかったのか?
身支度を整えはじめた後姿を見ながら、悶々とした。




「・・・というわけで、今日の支援要請はありませんね」
「おお、じゃあ一日オフ?」
「そんなわけないだろ、とりあえず市内の巡回2名、いざって時の待機要員2名で行こう」
「じゃあ俺は待機にする!」
「お前はその有り余る元気を外で発散させて来い」

と言ったのは課長。

「市内の巡回は私とティオちゃんでも出来ますけど・・・」

エリィがさり気なくフォローする。
あれでもなんでおれとエリィじゃないんだ?

「エリィ、巡回ならおれが行っても」
「あら、だって今日のロイド疲れた顔してるもの。少し休んだ方が良いんじゃない?」
「そんなことは・・・」
「ほらな、俺が言ったとおりだろ?」
「確かに今日のロイドさんは少し調子が悪いのではないかと」
「ロイドちゃんとねてる~?」

応接椅子のところで本を読んでいたキーアまでもが柵の隙間から顔を覗かせてくる。

「み、みんな・・・」

やっぱり、朝のことが尾を引いてるのだろうか。
うなだれていると、課長が横から口を挟んだ。

「この元気者は連れて行かないのか?」
「ランディさんは必ず裏通りで女性に引っかかるんです。面倒なので待機して頂いてよいのではないかと」
「そうか。ランディ、遊びもほどほどにな」

煙草をもみ消しながら課長は少し呆れ顔になった。

「へいへい」

気にしない様子で、ランディは生返事をする。

「じゃあ、おれとランディが待機。エリィとティオで市内の巡回を頼むな」
「ええ」
「了解です」

二人が出て行って、課長も本部に行くといって出ていった。

「ロイドっ、今日はここにいるの?」
「ああ、急な用事でも入らない限りはね。本を読んであげようか?」
「う~ん、いいっ、ランディに読んでもらう」
「俺?」

急なご指名にランディはきょとんとして自分を指差した。

「キーアわかるよ、ロイド今日つかれてる」
「あ、はは・・・」

キーアにまで指摘されると参ってしまう。
そんなに元気がないように見えるだろうか。

(これじゃあ捜査官失格だな・・・)

「まあ良いじゃねえか、休みだと思って2階で休んでろよ」

待機なら俺がしとくからさ。
おれの憂鬱を見透かすようにランディはそう言ってキーアの相手をはじめる。
妹でもいたのだろうか、ランディはティオと言いキーアと言い、年下のあしらいが上手い。

(妹・・・そう言えばランディの家族のことって聞いたことないな。親父さんが団長だってことくらいか)

2階にとぼとぼと上がりながらそんなことに気づいた。

(おれ、ランディのことどのくらい知ってる・・・?)

猟兵団≪赤い星座≫の元団員。本名はランドルフ・オルランド。
ライフルを持つのが嫌で警備隊をやめさせられそうになった。
軟派でスケベで、キスが好き。
でも好きと言った相手に手を出さない。

(知ってるのってその程度・・・?)

でも、必要以上に聞く必要なんかない。
ランディは、今、おれの傍にいるんだから、わざわざ過去を探らなくても未来は紡げる。
そう思いなおしたところで、ドアを開けて、ベッドに身をもたせる。

(求めてもらえないことが不安なんだな、おれ・・・)

だから必要以上に相手を知ろうとする。
求めているのだと主張することで、相手にも同じことを要求する。

(そんなの、嫌だ。押し付けだ)

久しぶりの自分の部屋。
眠くはない。
ランディと寝るようになってから眠りは一層深くなったと言っても良いくらいだから。
ただ夜、体がうずいて仕方なくなる時がある。
大体ランディはおれに腕枕をしてくれたり、抱きしめたりして寝るから、いつも腰を引いている。

(・・・バレたら、どんな顔すれば良いんだか)

ランディは寝る時いつも上半身裸。密着していると生々しい体温だとか香水の香りだとかが混ざってすごく良い。
でもって極上のビターチョコのような低音で囁いてくる。

『ロイド・・・』


「うわ・・・、最悪・・・」

思い出してしまうと、下腹部が熱を持ち始める。
いつ緊急の要請が入るかも分からないのに、何をしているんだろう。

「泣きたい・・・」

さすがに涙は出てこない。
ランディと寝るようになったせいでしばらく出していないのもいけなかった。
もともと淡白な方だと思っていたのに、こんな自分は知らない。
熱をもてあましながらどうしたものかと途方にくれる。

「抜くなら抜いた方が精神衛生上、良いか・・・」

顔が赤くなっているのが分かる。
なんだって生理現象に顔を赤くしないといけないんだろう。

「ランディの馬鹿・・・」

八つ当たりもいいところだ。
馬鹿と今罵った人物を想いながら、そっとズボンを下ろす。
下着に手をかけたところで、階下からキーアの声が聞こえた。
この部屋に鍵はない。もともと住居用の物件ではないからだ。
男二人には必要なかったのでエリィとティオの部屋にのみ鍵を付けた。
それが今さらながら恨めしくなってくる。
下着をひょいと捲くって覗き込むと主張する熱がある。
キーアもランディもまさかおれがこんなことをしようとは思っていないだろう。

「来ないよな・・・」

そう思って下着の中に手を突っ込んだ。
頭の中でランディの声が繰り帰る。
ロイド、と甘い声で囁かれる毎夜。溜め込んでいた熱が一気に吹き上がってくる。

「ん、ん・・・っ」

縮こまって、先走りが溢れてくる熱を皮ごとしごき上げる。
にゅち、ぬちゅ、という音に支配された。
ランディに抱かれたら、どんな風だろう。
初めて後ろに指を入れられた時は痛く感じたけれど、今はそれさえ欲しい。

(抱いてほしい・・・!)

「あ、あ、・・・っ」

普段ただ抜く時なら出ないような声が口から唾液とともに溢れてくる。

「はぁ、は・・・っ、ランディ・・・」



おれは、この日、本当に迂闊だった。



「呼んだか?」
「はぁ・・・・・・・。・・・っ?」

おれは今ベッドの上に乗って、ドアに対して後ろを向いている。
いつ、ドアが開いた?気配なんて感じなかった。

「ロイド?」

ランディは、振り向きもしない、ろくな返事もしないおれをいぶかしげに見ているようだった。
もしかして、気づかれてない?

「あ、あのっ、さ、今丁度腹が痛くなって・・・だから、水と薬、持ってきてくれないか?」
「マジかよ、大丈夫か。やっぱ風邪引いてるんだろ」

ランディはさっとこっちに近づいてくる。

「来ないでくれ!」

ランディの空気が止まった。
部屋の中が一気に凍りつく。氷点下だ。

「あ・・・、ごめ・・・ん」
「・・・いんや、・・・水と薬な。了解。お兄さんが持ってきてやるよ」

バタン、とドアの閉じる音がして、ホッと一息ついた。
そしてそのままドアの方に振り向く。

(ランディに後で謝らなきゃ・・・―――)

ドアに目をやった瞬間、体がびくりとこわばった。

「やっぱお前、今日調子おかしいのな」

俺はドアを閉めただけだぜ、とランディは言った。
丁度時間は12時くらい、中天に差し掛かった陽が眩しくてランディの顔は逆光になる。
表情はまったく見えない。

「さて、どこの調子が悪いんだ?」
「あ・・・、来ないでくれ、本当に!」

ランディはお構いなしに近づいてきて、おれの状態を確認した。
必死になって前を隠してはいるが、もうバレただろう。

「・・・・」

ランディは何も言わないでおれを見下ろしている。

「ごめ、違うんだ・・・いや違うって言うか」

ランディの顔が見れない。
もう何を言えば良いのか分からない。
視界がぼやけてくる。
涙?泣いてるのか、おれ。
どうして。
ちょっとした、男同士なら分かるような事じゃないか。

「悪かった、本当に痛ぇんだな」
「・・・・ふ、ぅ・・・っ」

ぼろぼろ、涙が零れ落ちてくる。
軽いパニックになっているおれをの頭をランディはくしゃっと撫でた。

「お前が調子悪かったワケ、分かったわ」
「・・・う、く・・・ぅ・・・っ」
「ごめん」

おれはぶんぶん頭を横に振って、その謝罪を取り消そうとした。
別にランディは悪くない。
誰も悪くない。

「今な、エニグマでお嬢たちから連絡が来て、昼飯は外で食うって。そんで、キー坊は遊びつかれて、ツァイトと昼寝中だ・・・あと、」

ランディはおもむろに喋りだす。
あまりにそれが普通過ぎて、思わずランディの顔を見上げた。
涙は変わらず零れ落ちてくる。

「課長から連絡があって、今日の待機は無しになった」
「う、く・・・なし・・?」
「今本部の方で人手が足りてるらしい。お嬢たちも昼飯が済んだら非番扱いだ。遊撃士協会にも問い合わせたんだが、そっちも人手が足りてるから、俺らのとこに今日要請が来る確率はほぼゼロなんだとよ」

ランディは何か言おうとしている。
それは鈍いおれにも分かった。

「だから・・・、なあ、ロイド・・・今、完全に二人きり、だぜ」
「あ・・・、それって、」

おれの言葉を制するように、ランディの唇がおれの口を塞ぐ。

「何も言うな、・・・言わなくて良い」

ランディはおれを抱きすくめる。
涙はいつの間にか止まっていた。

「・・・覚悟、しろよ・・・?」

その少し掠れた声に、俺の頭も完全に思考がストップした。

 
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