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雨が降る。
彼はこの雨に何か思い出すのだろうか。





雨がしとどに降る。外の様子を窓から見てこれはしばらく続くなと思った。
今日のランディは様子がおかしい。
いつもなら非番の日は必ずカジノだの女遊びだのに出かけていって夜遅くに帰ってくるのに、部屋にこもりっきりだった。
待機要員のエリィはまた雑誌でも読みふけっているんじゃないと言って特に気に留めていない。
ティオは本部に行ってしまっているし、キーアは珍しいことに課長と一緒に街へ出て行った。
おかげで部屋はしんとしていて、雨のざあざあと言う音だけが聞こえてくる。
おれは部屋の中をうろうろして時折端末をいじっては支援要請のない事を確認する。

「ロイド、」
「なに?」
「さっきからそわそわしてるけど、どうしたの?」
「あ、ああ、ずっと忙しかったから何か落ち着かなくて」
「ふふ、それもそうね。私もちょっと、そんな気分かも」

嘘をつくなんてらしくなかったかもしれない。
エリィの笑顔が胸に痛かった。
エリィは先日の魔獣退治の調書を書いている。
基本調書は重要案件をおれが、その他は全員で分担して書くのだが、ランディは魔獣退治以外の調書を書いたことがほぼない。
面倒だと言って、書かないのだ。
しかし不思議なのだが、いや当たり前なのかもしれないが、魔獣退治のランディの調書はすごく仔細に書かれている。
それが何を意味するのか、分からないわけではない。
数多くの戦場を駆け抜けたであろう彼の分析力だ。
瞬時に敵の攻撃スタイルを見抜き、急所を捉える。戦場で無くてはならないカンだろう。

ランディのことばかり考えていたからか、エリィに声をかけられても気づかなかった。

「ねえ、聞いてる?ロイド」
「あ、ああ?すまない考え事をしてて」
「調書のこの部分なんだけど、魔獣のアーツ攻撃についても書いたほうがいいかしら」

ふと、以前言われたことを思い出す。

『アーツはその効果、範囲、地点指定か単体指定かをとっさに見抜かなきゃならねえな、でなきゃ一撃でズドンだぜ』

「・・・そうだな、効果、範囲、・・・出来る限り詳しく書いてくれ」
「じゃあ戦闘手帳が必要ね、確かランディが持っていたかしら」
「ああ・・・おれ、借りてくるよ」
「お願いするわね」

さっきまで様子を見に行く口実は無いものだろうか、と思っていた。
何となく、いつもなら用も無く入れるのに今日は扉の向こうの気配が寂しい。
まるで、誰もいないみたいに。
ランディの部屋の前に立ってノックすると、ロイドか?と返ってくる。
気配で分かるものなのだろうか。

「ああ、おれ」

ドアが開く。
まさか開くと思っていなかったので、ドアノブに手をかけていた俺は少し手を引っ張られて前のめりになった。
自然と出てきた人物の胸に顔をぶつける形になる。

「いいぜ、入れよ・・・っと」
「ご、ごめん」
「何だよ、お兄さんが恋しかったのか?」

ランディはニヤニヤ笑っている。いつもと調子は変わらない。
それを見て拍子抜けしたのと、安堵したので、おれは心配して損した、とこぼしてやった。
ランディはその言葉にきょとんとする。

「だって今日雨だろ」

違和感があった。
まるで最初からおれの心配の理由を知っていたみたいだ。

「おれ、何が心配とか言ってないのに」
「お前のことだから、俺が今日カジノに行かないだとか心配したんだろ?雨だもんめんどくせーよ」

あっさり言い当てられて少し面食らう。

「その通りだけど・・・」
「やれやれ、俺らのリーダーは心配性だねえ。で、何か俺に用か?」

また違和感を感じた。
いつもならランディは用が無くてもあっても気にしないはずだ。
まるで用事以上のことは拒絶されている気がする。
おれの被害妄想だろうか。

「ああ・・・、戦闘手帳を貸して欲しいんだけど」
「お嬢が今調書かいてるんだな、ほいほいっと。アーツ関係は詳しく書いてねえから、詳細はティオすけが戻ってきてからの方が良いと思うぜ」

アナライザーで調べた情報の一部は独自にティオが管理している。敵のアーツ情報や特殊能力なんかは戦闘手帳には書き込んでいない。
ランディは自分のジャケットの懐から少しぼろくなった手帳を取り出しておれに渡す。
エリィが今どこで引っかかっているかもお見通しのようだった。

「ランディってやっぱりすごいな、おれじゃ魔獣の癖はすぐに見抜けないよ」

と、少し世間話でも振ろうかと思ってそう言ってみる。
ランディは少しへらっと笑う。

「そうでもねえよ。んじゃ、お嬢にがんばれって言っといてくれ」

ランディは世間話には乗らず、あっさり扉を閉めてしまった。

(何か、反応が淡白なような・・・)

いつもなら、あそこから話を膨らますのがランディなのに。

心配しなくても明日になればきっといつも通りになっているかな、とは思うものの気にかかって仕方ない。
2階から1階に降りると、ティオが本部から帰ってきていた。

「ロイドさん浮かない顔ですね」

本部に言ってきた感想でもなく、昼ご飯の話でもなく、まずそう投げられた。
おれって顔に出やすいのかな。ティオに指摘されて曖昧な笑いをこぼした。

「ロイド、手帳は?って、あら本当に浮かない顔」
「エリィまで・・・おれってそんなに顔に出るかな」
「と言うことは本当に浮かないのね」

あれ、おれカマかけられた?
困ってしまって笑うと、エリィもつられるように笑った。
手帳を渡して、調書の続きをお願いする。
端末を操作しながら、ティオがくるりとこちらを向いた。

「また本部から要請です。2階資料室の整理だとか・・・この間整理したばかりだと言うのに・・・」

ティオはぶつぶつ文句を言いながら立ち上がる。

「ロイドさんは待機していて下さい、私はエリィさんと出ます」

唐突にそう言って、ティオはエリィに視線を投げた。
エリィは笑って頷く。

「でもエリィは調書を書いてるし」

机に広げられた書類を持ち上げて、言う。
ティオは意味ありげにじっと見つめてきて、それから少しため息混じりになった。

「書類整理のたぐいは男性より女性向きかと。それにその調書は明後日までのはずです」
「でも・・・」
「良いのよロイド。私も丁度気分転換したかったし、行ってくるわ」
「昼飯は?」
「外で済ませてくるわ」

言うとエリィも何事も無いかのように立ち上がる。
調書の続き、書いておこうかと尋ねると、それもどうせもうすぐ書き終えるから、と返される。
エリィとティオは色違いのおそろいの傘をさして出て行ってしまった。

「・・・浮かない顔か。まったく仕様が無いな、おれも」

誰もいない支援課1階で、とりあえず椅子に座ってふう、とため息をつく。
しばらく端末を操作して余分な情報を整理したり昼飯の下ごしらえをしたりしていたが、やはりランディのことがちらついた。
キッチンに立って、片栗粉を溶きながら、さっき話したことを思い出す。

『だって今日雨だろ?』

あの唐突な言葉。

(雨に何かあるのかな・・・)

「よお、今日は麻婆豆腐?」

ドアを開けながら、ランディがそう問いかけてきた。
今考えていた人物が現れて内心冷や冷やする。
別に後ろめたいわけではないけれど。

「ん~、良い香り。お前いつでも嫁にいけるな」
「はいはい。分かったから、これ運んでくれる?」
「んだよ~、そこは『ランディのお嫁さんになりたい』って言うところだろ?」
「キーアとごっこ遊びでもしてくれ」

変わらない軽口。
なのに、引っかかる。
ランディの明るい笑顔の裏側で、何が起こっているのかと。
ランディは意気揚々と皿を運んでいった。
その後姿に訴える。

(教えてくれないか・・・?)

 
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