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秘密を共有しよう。
ランディはそう言って笑った。



部屋を借りた、と言ってきたのはランディだった。
小さい銀色の鍵をぽんと投げ渡されて、目を見開く。
事後の余韻に浸る中だったのでまだ頭が追いつかない。
部屋を借りた?どういうことだろう。
ランディは手元のケトルからお湯を注いでコーヒーを淹れる。
おれの傍にやってきてカップを手渡した。
ありがとうと言って受け取る。
その一連の動作は何となく気だるい雰囲気がある。
さっきまであんなに熱くなっていたのが嘘みたいだ。

「部屋借りたって・・・」
「ん、嬉しくないのか?」
「いや、どういう意味?」
「そのままだぜ。俺の部屋でするのも良いけど、お前声でかいからなあ」

そうかな、普通だろと思って、すぐそう言うことをしている時のことだと気づく。

「最初は声抑えてんだけど、段々な」

ランディはニヤッと笑っておれを見た。
自覚はある。声を跳ね上げるたびにランディがおれにキスをして口を塞ぐのも知っている。
確かにすぐ上の階はティオがいる。
聞かれているかもしれない。と言うか確実に聞こえている気がする。

「ティオすけの教育上良くないとか思ったろ」

おれはそうだな、と言って布団の上で寝返りを打つ。

「俺は明るい性教育としてありだと思うけどな」

何が明るい性教育だよ。
おれはランディの言葉を無視する。

「どこ借りたの?」
「アカシア荘」
「ああ・・・前エステルたちが住んでた」
「そ、そ」
「ふうん」

何の気なしに返事を返していると、突然ランディはおれの手を取って手首にがじっと噛み付いた。

「痛っ、こら、見えるところに跡付けるなってば」
「お前があんまり気の無い返事するから」

赤くなった部分をべろっと舐めて、ランディは上にのしかかってくる。
さっきまで散々やったのにまだ足らないのか。
おれは嘆息する。
一度してしまってからというもの、ランディはブレーキがなくなったみたいに毎日でも求めてくる。
おれもそれを拒否しきれずに流されている部分がある。
何せランディとするのは気持ち良い。
こんなに気持ち良いことがあるのかとも思う。
しかしまあ、この間なんてキッチンで盛り始めたからさすがにお玉で応戦した。
求めて欲しいと思っていたけれど、こうなると始末に終えない。

ランディはわざとおれのむき出しの首筋に跡をつけて、満足気になっていた。
そのまま、まだ何も身に着けていない体にうっ血を残して行く。
抱かれるようになって気づいたが、ランディはまるで俺のものだと言わんばかりに所有印を残す。
それが嬉しくないわけじゃない。
でも、何かランディは見失っている気がした。
俺の上に覆いかぶさり、首筋に顔を埋めてランディは言う。

「喜ぶかと思ってたのに」

捨てられた犬みたいな声で言う。

「嬉しくないわけじゃないけど・・・」

このまま時間を見てはアカシア荘に二人でしけこんで睦みあう。
おそらくおれ達は二人して時間も何も忘れてただ腰を振り合うんだろう。
確かに嬉しい。けど、それが果たして良いことなんだろうか・・・?

「ねえランディ」
「ん?」
「ちょっと、距離置こう?」
「ああ、重かったか?」

ランディはおれの上にのしかかっていた体重をどかして、おれの隣に寝転がる。

「そう言う意味じゃなくてさ」
「なんだよ」
「何か・・・、最近のランディずっとおれのことばっかり見てる・・・」
「当たり前だろ、恋人だもん」

おれの髪に鼻を寄せて、匂いを嗅ぐ。
シャンプーの香りが好きなんだとか。

「そうじゃなくてさ・・・、周りが見えてないって言うか」
「恋しい人の前じゃそんなもんだろ」

駄目だ。完全に聞く耳が無い。
はあ、とため息をつくと、ククッと笑う声が聞こえる。

「お前の言いたいことは分かってるよ、でも嬉しくてね」

ランディは屈託なく笑った。

「俺の汚い部分を散々見せてきて、それでも傍にいてくれるって事が嬉しいんだ」

ランディはごろんと仰向けになると自分の前髪をくしゃとかき上げる。
なんだよ。
そんな顔されたら、何も言えなくなるじゃないか。
そんな、子供みたいな無邪気な顔。
誰にも見せない顔。おれだけに見せてくれる顔。
兄貴分じゃなくて『ランディ』の顔。
おれはきゅっと唇を結ぶ。
おれだけに向けられる表情が愛情なのだと気づくと、嬉しくてたまらない。
なんだ、おれだって同じくらい浮かれているじゃないか。
自然とランディにキスしていた。
唇を離して見つめあう。

「アカシア荘・・・」
「ん?」
「次の休みに、行こうか」
「良いのか?距離を置かなくて」

理性では良くないと思う。
でも感情を理性で押しつぶすのは不可能だ。

「気持ちが先走ってるんだ・・・」
「それならそれで良いんじゃねえの?良いと思ったことが正解だ」

ランディは深く笑んで、おれを抱きしめる。
胸に顔をすり寄せた。落ち着く。

「毎日は行けないけど、それでも良いの?」

彼はふふ、と笑った。

「毎日したいのか?」
「・・・したいよ」

少し恥ずかしかったけれど言ってしまう。

「ロイドはえっちだなあ」
「馬鹿・・・」

ランディは馬鹿と言われたことが嬉しかったみたいな顔をして、おれの髪をかき回す。
そしてちょっとだけ寂しそうに目を伏せて、申し訳なさそうな声を出した。

「まあ俺もお前と同じようなこと考えてたんだ。それで部屋を借りた。良い区切りになるだろうと思ってな」
「そう、なのか?」

ランディが同じことを感じているなんて知らなかった。
そのために部屋を借りたなんて。
おれは二人の時間をうまく調整する努力もしないで、ただ漠然と離れようとしていたことが恥ずかしくなる。
それになあ、とランディがこぼした。

「なんせ最近周りの目が怖ぇからな」
「周り?」
「お前は知らなくてもいーさ」

ランディはやれやれと言った顔をする。
たまにランディは大人の事情だのなんだのと言って教えてくれないことがある。

「ま、とりあえず次の休みまではお預け、だな?」
「ああ、分かった」
「我慢しろよ?」
「その台詞そのまま打ち返すよ」


手を重ねて握り合い、どちらからともなく口づける。
幾度か睦み合ったこのベッドとも今日でお別れ。

(あっちに行ったら、おれ、どんなんなっちゃうんだろ・・・)

今からその昂ぶりを期待して、静かに目を閉じた。

 


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