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晴れた空の下、釣り糸を垂れる影が二つ。
おれたちの面持ちは鬼気迫るものがあったと思う。
息も殺し、絶対負けないという気迫だ。
やがておれの釣り糸に引きが来る。
ぐぐぐっと引っ張っては逃してを繰り返し、最後に力任せに引き上げた。

「釣れたァッ」

大物のタイタンを釣り上げて歓声を上げる。

「おっと、ロイド君大物だね」

澄ました顔でそう言うのはウルスラ病院のヨアヒム先生。
最近先生と釣りをすることが多くなった。
先生も釣公使団以外での釣り仲間が出来たと喜んでいる。
仕事の合間を抜けてきているのはちょっと頂けないが、先生のキャラがそれを許してしまっている。
ヨアヒム先生の釣り糸にも引きが来たらしい。

「おっ、おおおっ?」

歓声からして大物だ。先生は一人で悪戦苦闘する。
見かねておれも手伝いますと、手を出して、二人でロッドを握る。
引きに負けないように、けれど引き過ぎないように注意深くリールを上げて行く。
そして

「き、きたああ!!」

ヨアヒム先生の叫び声と共に、おれが釣り上げたのより遙かに大きなタイタンが上がった。
先生の足元でびちびち身を揺らしながら、タイタンはもがいている。
今日はおれの負けだ。
先生と釣り始めてから負けたことなかったのに、とため息をつく。

「ふふふ、ロイド君、敵に塩を送ったのが運の尽きだったね」
「本当に。正直悔しいですよ」

さて、と先生は眼鏡を押し上げる。

「じゃあ、恒例の・・・」
「罰ゲーム、ですか?」
「そうそう」

先生はにこやかに笑っているが、今まで勝ちっぱなしだったので先生の罰ゲームは初めてだ。
ちなみにおれが勝った時はレクチェの特性ビーフシチューをおごってもらうことにしている。
先生からは一体何がくるやら想像も付かない。

「さあて、何をしてもらおうかなあ」
「お手柔らかに頼みます」
「たかがゲームされどゲーム。ロイド君みたいに可愛い子にあんなことやそんな事をしてもらえたら先生嬉しいなあ」
「あの、あくまで常識の範囲内でお願いします・・・」

先生は眼鏡をきらりとさせると、ポケットから何やら取り出した。

「じゃあ新薬の実験台になってもらおうかな?」
「いっ!?」

新薬の実験?何かとんでもないものを飲まされるんじゃないだろうか。
先生はおれの反応に満足気な顔をして、はははと笑った。
冗談だよ、と言われてホッとするが、先生はあくまで手に持った薬品らしきものを手放す気配はない。

「これはちょっとしたビタミン剤だよ、新薬と言うより僕が独自に調合したものでね。ただ、味が悪いのかだあれも飲んでくれないんだ」

先生はふうと息を吐き出して、ずずいと瓶を俺の前に出してくる。

「疲れた体には良く効くから、まあ飲んでみてよ。夜寝る前とかでいいからさ。後で感想聞かせて」
「は、はあ、そう言うことなら・・・」
「じゃ、今日も楽しかったよ、またね」

先生は釣り上げたタイタンをバケツに入れると、先に立ち去ってしまった。







「ロイド、それなに?」

おれの部屋に調書を持ってきて、見てくれと言ったついでに入り浸っていたランディが机の上の瓶を差す。

「ああ、ヨアヒム先生からもらったんだ」
「あーあの変な先生か」

最近よく一緒に釣りに行っているのが気に食わないらしいランディは『変な先生』と棘のある言い方をする。

「なんか栄養剤?とか言ってたけど、すごく不味いみたいで・・・」
「ふーん・・・何か胡散臭ぇな」
「おれもそう思うよ」

瓶を手の中で転がしながら、ランディは口をへの字に曲げている。
そんなに気に入らないんだろうか。
ランディとまあそういう関係になったようなならないような状態だが、ランディは強い独占欲をあらわしてくる。
おれが出かけるとなると、誰とどこへ何しにという有様で、あまりランディらしくもない。過保護なだけと言えばそうなのだが。

「まあ飲んでみるよ、感想聞かせてくれって言われてるし」
「そうかい」

するとランディは蓋を開けてごくっと一口飲んでしまった。

「ちょ、ちょっと」
「・・・不味くねえぞ?」
「え?」
「甘いし、ジュースじゃねえの?」
「うそ」
「ほれ、飲んでみろよ」

毒見のつもりだったのだろうか。
瓶を受け取り控えめに一口飲むと、本当だ、甘い。

「お前からかわれたんだな」
「はは、そうかも」

そしておれは瓶を空にした。

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