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隣に君がいないことがこんなに不安だなんて。




その日は朝から緊急の支援要請をこなすことになった。
急ぎということもあっておれは朝早めに支援課を出た。
魔獣退治の応援に、その日入ってきた迷子の捜索。
非番のランディを除き、エリィとティオに迷子の捜索を任せ、おれは西クロスベル街道をバスで急いだ。
魔獣は雑魚と言うことだがベルガード門の近くに大量発生しているという。
そのためバスは分岐点までの運行だ。

分岐点からベルガード門へ近づくと隊員達がすでに応戦している。
魔獣はおれに背を向けるように隊員たちに食って掛かっていた。
背後からトンファーで急襲をかける。散り散りになった魔獣の間を縫って、隊員の中に入ると来てくれたか!と見知った顔が一声あげた。

「ランディのやつはどうした?」

真横からの攻撃に一撃当てた隙にそう尋ねられた。

「非番です、」
「あんにゃろう、折角期待してたってのに」
「はは・・・」

隊員はランディらしい様子を思い描いたのか苦笑交じりに言い捨てた。
まあこの程度の雑魚ならランディがいなくても問題ないだろう。
加えて精鋭揃いの隊員の中だ。
何の心配も要らない。
すぐに片がつく。
だがそう思っていたのも束の間、少しの戦闘の間に敵の攻撃に違和感を感じた。
まるで何かに統率されているかのように一陣がはけると二陣が布陣している。
紡錘陣形を崩そうとせず、無理してでも中央突破してこようとする。

(おかしい・・・)

視界の左端でライフルが発砲されはじかれた魔獣をハルバードがなぎ払う。
自分は目の前に飛び込んでくる魔獣の懐に入り急所を一撃。頭上に飛んできたものに対しては一歩体勢を後退、反動をつけて一気に攻め込む。
そうしてしばらく戦っていたが敵の攻勢は止まらない。

「ミレイユ准尉!」

おれは後方で指揮をしているミレイユ准尉を呼んだ。
応戦しながら戦線を一時離脱し、准尉の元に走った。

「やつら、恐らく母体がどこかにいるはずです。このままじゃ消耗戦だ」

それもそれなりの知性を備えたデカブツがいるはずだ。

「それはこちらも察していて、先程からレーダーで探知しているんだけど・・・それらしいものが、見当たらないのよ・・・」

准尉は端正な顔を歪めて前髪をかきあげた。
おれもレーダーを覗き込みながら、確かに何の反応も得られていないことを確認する。
そうなると敵はレーダーに捕捉されない特殊なフィールドを持っているか、あるいはかなり遠くにいるか、どちらかだ。
しかしこの補足レーダーの距離はおよそ100セルジュ。そんなに遠方にいるとも思えない。
そうなると近辺で雑魚を操っている可能性が高い。

「おれが確認してきます」

准尉は隊員を割くと言ったが、数で当たってくる敵に消耗しているところにそれは出来ない。
おれは准尉にエニグマの番号を聞いて即座に走り出した。
敵を迂回し、疾走しながら魔獣の後方にある林の中に飛び込んだ。
背後の戦闘の音と打って変わって林の中は静かだ。
だが確かに感じる。ビリ、と魔獣の空気が肌を伝った。おれは慎重に脚を進める。
林を10歩も進まないうちに呻くような声を聞いた。近い。
トンファーを構えて耳を澄ませる。方位は北西。
おれの脚はその方向に向けて進む。
幹の間に体を隠しながら進み続けると、林の中にぽっかりと広く開いた地帯がある。
確かに呻き声はそこからだ。魔獣はあまり目が良くないものも多い。気配さえ殺していれば見つからないはずだ。
しかし肝心の姿が見えない。

(ステルス状態・・・?)

厄介な、と思い、ひとまずエニグマを取り上げようとした。
と、ポケットをまさぐる手が滑ってエニグマが地面に落下する。
枯葉の間に落ちる間、おれの背中を冷や汗が伝う。
それと同時に臨戦態勢を取り、一撃に備えた。
ばさっとエニグマの落下音がすると、直後おぉんという声と共におれが隠れていた幹ごとなぎ払ってくる空気音がした。
ひゅっと空気を切るその音にわき腹をガードする。

「ぐっ・・・!」

思いのほかその力は強い。あばらが一本か二本いったかもしれない。
敵は強力なツタらしきものを無数に持っているらしい。何方向かから空気を切る音が聞こえた。
ステルスが解けない限り勝機はない。一撃でも当たれば解除は可能だが懐に接近する前にこの各方面からの攻撃をしのがなければいけない。
後方からしのびよってくる一本、左からくる複数本、右から少し遅れて一本。
どうっとくる集中した一撃を右斜め前に回避する。
反動をつけて、一気に敵の中心と思われる部位に渾身の一打を打ち込む。
ガツッと確かな手ごたえと共に、ステルスが解ける。
巨大な触手を頭上から伸ばす大型の魔獣。

(ジオフロントで出くわしたのと同じタイプか・・・?)

しかしステルス状態になっていたことから察するに、違うタイプかもしれない。
とりあえず今は考えている場合ではない。
一刻も早くミレイユ准尉の元に戻るか自力で撃退しなくてはならない。
どちらにせよ敵の懐に入っている以上困難であることに違いはないが、ステルスが解けたということはもうレーダーで捕捉しているはずだ。
下手に戻って逃げられるより応援が来るまで応戦する方が良いかもしれない。
覚悟を決めてトンファーを構えなおす。防戦の体勢を取った。
ずきりと痛むわき腹をかばいつつ、四方八方から飛んでくる触手をよけては打撃を加える。
アーツが使えないのが致命的だった。
ティアひとつあるだけでも格段に違うはずなのに。
そして厄介なことにどうやら敵には学習能力があるらしい。
段々と攻撃をかわす動きが鈍くなり、単調になっていくと敵に着地点を見抜かれていく。
やがて一本の触手がおれの足を絡め取った。
しまったと思う間もなく、そのまま宙に体が舞い、地面に衝突する。背中をしたたかに打ち付けられて思わず呼吸が止まった。そしてえづく。
ごほごほと咳をしているところ、敵の触手はおれの首に絡み付いてきて締め上げる。

「う・・・ぐっ」

絶体絶命だ。
触手は力任せに足と頭部を引きちぎろうとしている。体がみしみしと悲鳴を上げた。
息苦しさで緩んだ手からトンファーが地面に落ちた。
首に絡みついた触手に手をかけてもがくが当然のごとくびくともしない。
段々と呼吸が困難になって暴れる力も失われていく。
意識が薄れていく中、心中で舌打ちした。

(くそ・・・っ・・・・・・・・・・一人じゃなければ・・・)



───その時だった。
雷光の一閃のように光が走った。
直後に真紅が視界を埋める。
光は陽を受けたハルバード、真紅は髪だと気づく。
鬼神のような瞳をしたランディが獣じみた吼え声をあげながら、絡んでいた首と足の触手を叩き切っていた。
そして中空から解放され、地面に落ちていくおれを片腕で軽々とキャッチする。
地面に降り立つと肩におれを担ぎ直して、ランディは脱兎のごとく走り出す。
あばらがずきりと痛んでおれは呻く。

「撤退するぞ」

冷静な、冷たいとも思える声だった。
なんで?
なんでここにランディがいる?
浮かんでくる疑問符の数だけ混乱したが、とりあえず自分が助かったことと、ランディが撤退した直後に応援が動いたことを知る。
逃げる俺たちとは逆方向に警備隊員が突進していったからだ。




「ミレイユ、世話かけたな」
「いいえ、朝の時点であなたに連絡しておいて良かったわ」

魔獣の掃討を終え、准尉の部屋で一息つく。
軽い手当ても済んで、もうすぐウルスラ病院から救急車も来るということだ。
ランディがここに来た経緯はどうやらそういう事らしい。
おれと一緒に行こうとした時にはおれはすでに出発した後で、ランディはそれを追ってきたということのようだ。

「あの、すみませんでした・・・」

一人で突っ込んだ挙句、死に掛けたところを助けられた。
判断ミスもいいところだ。
だがミレイユ准尉は眉を下げて首を振った。

「命があって良かったわ、それにレーダーに補足できたのはロイドさんのおかげです。あのままではロイドさんの仰るとおり消耗戦でした」
「そう言って頂けると少し気が楽になりますが・・・」

嘆息する俺の背中を軽く叩いてランディはおれを呼んだ。

「お前、今日はどうかしてたな」

おれは冷えたランディの目を見て目を見開く。
別に慰めを期待してたわけじゃない。
そうではないが、ランディの冷たい目に射抜かれて二の句を継げなくなる。

「・・・、悪かった」
「謝って済む問題じゃねえ」
「そ、そんなに責めなくても良いじゃない」
「いえ、ランディの言うとおりです」

そう話していると、救急車が着いたらしい。
おれはランディに付き添われて救急隊員の運んできた担架に乗った。





支援課に戻れたのは夜半を過ぎていた。
エリィとティオが心配そうに見守っている。
おれが今日の事の次第を説明しようとする前に、ランディがそれを遮っておれを2階に押しやった。

「明日、きちんと説明しないと・・・」
「大体のことはお前が治療を受けてる間に通信で話しといた」
「そっか、・・・ありがとう」

そう言ってランディを見上げると、ランディは憮然とした顔のままおれを見ようともしない。
お礼に対しても無反応だった。
おれは改めて自分の軽率さを悔いる。

だが部屋のベッドに入ると、ランディがそこで初めて表情を崩した。

「もう、あんな無茶すんなよ・・・」

おれの髪を一束掴んでそう言う。
泣きそうな顔だった。
なんで、そんな顔するんだ。

「お前を見つけたとき、理性が吹っ飛んだ。恐かったよ」
「恐い?」
「死んでるかと思った」

眉間にしわを寄せて、ランディは今にも泣き出しそうだ。
ああ、そうか。
ランディのあの冷たい態度のわけが分かる。
おれが突っ走ったことを怒ったわけではなかったんだ。

「ごめん・・・」
「馬鹿野郎」
「えっと・・・どうしたらランディは、その、笑ってくれるかな」

おれは眉を下げた。
こういう時どうしたら良いのか、分からない。
おれの言った台詞も場に合っていたかどうか分からない。

「一人で、どこかに行くな・・・俺を連れてけ」
「・・・うん」
「今まで散々命を取りこぼしてきた。これ以上、俺から奪うな」

その言葉にこくりと頷くと、ランディはおれの頭をくしゃくしゃにして、やがて頭をかき抱いた。
自然と重なる唇。
それは少し、塩の味がした。

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