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それは一度触れてしまうと忘れられなくなる。
男が女の、女が男の肌を求めるように。

じわじわと侵食された感情は留まらない。


ぴちょん、と音がして目が覚める。
水滴が頬を伝った。冷たい。
おれは自分の有様を見てこの数日間が夢ではないことを今日も自覚する。
身奇麗にされてはいるが、見たことのない服。体のあちこちに走る痛み。
寝転がっていた場所には白いシーツがあったが、それも目が覚める前は赤く白く汚れていたはずだ。『彼』が綺麗にしていったのだろう。
頭痛と体の痛みに呻きながら身じろぐと金属音を立てる鎖が足首から太い支柱に繋がれている。
首には銀製と思われる首輪がはめられていてそれも支柱に繋がっていた。
牢屋の中を動き回れる程度の長さはあるがどう足掻いても扉には手が届かない。
鍵はついていないのに。
辛うじて手だけは自由だが、いくら鎖を引きちぎろうとしても無駄だった。

ふと、こつんと足音がした。

ここに来るのは彼しかいない。
体温が一気に下がった。
呼吸が上手くできず、手足は冷え、全身が震え始める。
胃の奥から嘔吐感がせり上がってきて口元を覆った。
手荒く陵辱された記憶が蘇ってくる。
ただただ、気持ちが悪い。
全身に拒絶が走る。
おれは逃げ場のない牢の中で壁際に身を寄せた。
鉄格子に体が当たってガシャンと檻が鳴る。
そのままその場にしゃがみこんで鉄格子を掴んだ。
唇がカタカタ震えだし、口からは言葉にならない呼吸の摩擦音が漏れる。
目は限界まで見開いて廊下の先の足音を見ていた。焦点が知らず知らず合わなくなる。
こつん、こつん、と足音は近づく。
浅い呼吸を繰り返しながら、居ても立ってもいられない衝動に駆られて思わず叫んだ。

「ッ来るな!!」

叫びは宙を舞い、地下の壁や天井にはじかれて反響する。
足音は一瞬止まって、また動き出す。おれは息を呑んだ。
薄暗闇の向こうに導力ランプの明かりが見えた。
足音は少しずつ、確かに近づいてくる。
オレンジ色のジャケットや赤い髪がぼんやり浮かび上がる。
それはやがてしっかりした輪郭を持って現れ、おれの前にやってきた。

「飯、持ってきたぜ」

なんでもないような響きでおれに声をかけてくる。
導力ランプを床に置くと声の主はおれの腕を取った。ひっと叫ぶと目の前にトレーが差し出される。

「お前ほそっこいからたくさん食えよ」

そう言っておれの腕に口付ける。
腕がぶるぶる震えた。

「震えてるな」
「・・・離してくれッ」

するとあっさりおれの手を離して手にしていたトレーをおれの前に置く。
おれの口からは意味を成さない声だけが漏れて、相変わらず唇がわななく。

「ラン、ディ」
「ん、なんだ?」

優しい笑顔がおれの前に広がった。
奇妙な違和感を感じる。
これはおれを屠った時のランディと同じなんだろうか。
この数日間おれを抱き続けたランディと同じなんだろうか。
あまりに様相が違う。
もしかして別の誰かだったのではないか、と思うほど。
おれはそれでも本能的に危機を感じていたかもしれない。
体の緊張がやまないからだ。

「鎖・・・取って」

振り絞るように言うと、ランディはまた笑った。
今度は目つきが違う。猫のように瞳孔が細まった気がした。
おれは唾を飲み込む。
やはりランディは、変わらない。この数日と同じだ。

「どこに行くつもりだ?」

ランディは目線を合わせるようにしゃがみこんでおれの髪をいじり、やがて頭を両手で包み込んで顔を近づけてくる。
そういう行為の予兆を感じて、おれはランディの手を払いのける。
彼は少し呆然としたようで、寄る辺なく手をさまよわせた。

「おれに、触らないでくれ・・・」
「ロイド?」
「ここから出してくれ!」

震えながらなんとか言葉をつむぐ。
ランディは不思議そうな顔をしたままおれの頭を再び包んだ。

「あんな抱き方したからだろ?悪かった。でも、お前の居場所はここだけだ。大丈夫、何も心配しなくてもお前は俺が守るから」

今度はおれがその言葉に呆然とする。
ランディは何を言っているんだろう。
ここ数日ろくに会話もなかった。
その間、ランディは何を考えていたんだろう。
俺が守る?何から?
目を見開いたまま疑問符をたくさん浮かべていると、ランディは優しく笑った。

「外は、いけない。お前を見るやつは、いない方が良い」
「なんだよ・・・それ。ランディ何言って・・・」
「お前は俺のことだけ見てれば良い」
「ランディ・・・?」
「俺はずっとお前の事を見てきた」

何を言っているのか分からない。
外はいけない?ずっと見てきた?

「あの日はオスカーとだべってたな、手が触れてた」

何のことか一瞬分からなかったが、言われて、ここに監禁された日の話だと気づく。
でもランディは一緒じゃなかったはずだ。

「オスカーと会う前はウェンディと楽しそうに笑ってた」

何で知ってるんだ。
おれはいやいやをするように頭を左右に振る。
恐い。

「この間支援要請があって助けた男にもお前は肩を叩かれたりして、触られてたな。あのオヤジ、今度会ったらお礼しとかねえと」

なんでランディがおれの行動の逐一を知っているんだろう。

「なんで・・・、」
「お前の後に一緒についてってた。気づいてるかと思ってたのに、薄情な奴だな」
「しらな・・・」
「ここ1ヶ月くらいはずっとお前と一緒にいたのに。お前はちっとも俺に気づいてくれない。ひでえなあって。だからつい乱暴にしちまったけど、優しくしたいんだぜ?お前が俺さえ見てくれれば」

そう言ってランディはおれに深く口付けてきた。
急な行動に咄嗟に反応できなかったが拒絶を表すように唇を噛む。
ぶち、と唇が切れてランディのあごに血が滴った。
ランディは笑って血をすくい上げて舐める。

「いてーな。なに、酷いことしたお返し?」
「こんなこと、もうやめてくれ。ランディどうしたってんだ、おかしいよ、こんな・・・だいいち支援課の皆はどうしてるんだ?おれがいなくて探してるんじゃないのか?」
「俺はどこもおかしくなっちゃいねえよ、お前が俺のことだけ見てくれるようにしたいって思ったら結果はこうだ。必然だろ?支援課総出でお前の事探してるけどな、まあそこは上手くやってるさ、心配すんな」
「そういう問題じゃな・・・」
「黙れよ」

冷たい声色にまた体がすくむ。
ランディは血がついた口元を再度ぬぐう。
そしておれの口を無造作にふさいだ。
無遠慮に押し入ってくる舌に舌を絡め取られて、おれは何度もランディの胸を叩いたがびくともしない。
呼吸がままならず目の端に涙がうっすらたまってきた頃ようやくランディはおれを解放した。
口の間に伸びた唾液をちゅる、と吸い取って、ランディは立ち上がる。
また夜になったら来ると言って立ち去ろうとする後姿に手を伸ばした。
その手は震えている。口付けられたときにまたあの行為を行われるのか、と予期不安が襲ったからだ。
けれどランディはそういうつもりもないらしい。
時間が無いのだろうか。
振り向いてどうした?と問うた。

「ランディはおれをどうしたいんだ・・・?」

純粋な疑問だった。
ランディは困ったような顔をして、再びしゃがみこんでおれに目を合わせた。

「お前が全部欲しい」

それだけだ。と言う。
欲しい?それはどういう意味だろう。
知覚するまで幾分かかかったおれの頭は、処理能力を超えてただランディの言葉を反芻する。

「欲しい・・・?」
「まあ端的に言えばそういう事だ」

ランディは口元だけで笑った。
おれに対しての感情がどういうものか分からないがそこには強い独占欲を感じる。
おれは何かランディに恨まれてこんな目にあっているわけではないのだ、というのは分かったが、ランディの独占欲はおれの想像しているものからはひどく逸脱している。

「なんでこんなこと・・・」
「言ったろ。お前が全部欲しいって」

おれの時間、おれの想い、体、心、他者に向かう関心それら全てをランディに向ける。そんなこと出来るわけがない。
そう言ったが、ランディは耐え切れないんだと言う。
おれからすれば相手の意思を無視してまでその全てを奪うこと、それをランディが強行するなんてありえないことだ。
あんなに優しいランディが。
ランディは肩を掴んで切なそうに眉を下げる。

「俺のものでいてくれ」

ぎゅうと抱きしめられる。
そこにはまるで子供のようなランディがいた。
欲しいおもちゃを買ってくれとねだって駄々をこねるような。
欲しいといわれてまだ混乱するの中、おれの頭はなんとか一つの答えを導く。

「ランディはおれのこと、好きなのか・・・?」

欲しい、とはイコールそういうことだろうか、とカンでしかないがそう思った。

「・・・ああ、そうだな」

ランディは細い声で言う。

「それは恋愛感情なのか?」
「そうでなけりゃこんなことしねえよ」
「じゃあ、おれの意思を無視して一方通行な思いでおれを手に入れて満足?」

ランディは身をすくめた。
一瞬おれを抱きしめる手が緩んだが、また強く抱きしめられる。
そして口の中でぽそぽそと何事か呟きながら、不意におれを押し倒した。

「・・・・っ」

恐い。また、まただ。
また、同じ行為が行われる。
手が頬に触れる。おれはぎゅうっと目を瞑った。
ランディが嫌いなわけじゃない。むしろ好きだと思う。
恋愛対象として見ていたわけじゃないが、憧憬のようなものはあった。
こうあれたら良いという自分の兄に重ねている部分もあった。
時折見せる暗い表情の裏側を知りたいと、知らず知らずその魂の在り処に惹かれてはいた。
だけれど。
これは、こんなランディは受け入れられない。
乱暴に服を剥ぎ取る動作、おれの肌に噛み付く動作、どれも思いやりなどというものとはかけ離れている。
恋人でないにしても好きなら大事にしたいのじゃないか?
好きなら笑っていて欲しいのじゃないか?
相手が苦しいと思うことは分かち合うものじゃないか?
苦しみを与えてしまうことがあっても、思いやってすり合わせていくのじゃないのか?
わけも分からず悲しくなって、涙がこぼれてくる。
どうして。

「どうして、好きなのにこんな・・・」

ランディは手を止めた。

「屠ること以外で俺の感情を表せるのかよ」

小さな、独り言のような声だった。
それに返答する間もなくランディはおれを荒々しく抱き始める。
抵抗しようと足掻くとランディは髪を結っていた紐を解いておれの腕をしばりあげる。
そうして下着ごとズボンを脱がして下半身を露にすると、性急におれのものを扱く。
急激に昂ぶってくる熱にあごをそらして、悶える。
なんとかランディを押しやろうとするが、この体格差にこの体勢では適うはずもない。
巧みに動かされる手の動きに反応してしまう自分の体が憎い。
いくらもしないうちに達すると、ランディは吐き出した精を掬い取っておれの秘所に塗る。
そして慣らしてもいない秘所に熱をあてがっておれを貫こうとする。

「あぐ・・・っ、痛っ、痛い!」

先端を押し込まれて、痛みに呻く。
何度か抽送を繰り返し、裂けて溢れた血のぬめりを借りてランディのモノが中に入り込んでいった。
中に入り込んでくる感触は何度されても恐い。
平素なら味わわない痛みと苦痛でこのままどこかおかしくなるのではないか、と思う。
体が恐怖にわなないた。

「痛い、よ・・・」

おれは震えながら弱弱しく言うしかなかった。
涙が一粒頬を伝った。
それは痛みによるものなのか、それともランディの変貌が悲しくて流しているものなのかは分からない。

「そうかよ」

返事はにべもない。
しばらく内壁の感触を味わっていたらしいランディは、やがて動き出す。
裂けて熱くなる痛み。
それと同時に内奥を突かれる言いがたい快楽が背筋を走る。

「っく・・・ぅ、う」
「感じてんだよな、これで」

これ、とランディは自身を軽く揺すぶって見せる。

「はは、お前、抱かれるためみたいな体だよなあ」

ランディは悦に入った声で言う。
その言葉が胸をえぐる。この快楽を感じる瞬間がなんとも言えず嫌なのに。
無理を強いられているのに感じる自分がまるで卑しい娼婦のようで。

「もう、やめてくれ・・・!」
「嫌だね・・・でもまあ、こういう抱き方もアレだな。お前がねだれば変えてやらないでもないぜ」
「ねだる・・・?」
「そう、」

ぐっとより深く中に侵食する感覚に身震いする。
入り口が一際広がる。
たまらず呻くように喘ぐと、ランディは気を良くしたらしい。
奥ばかり集中して攻めてくる。

「うく・・・あっ、そこ、やっ」
「優しくしてって、おねだりされたら、俺も考えないでもないぜ?」

誰が、と思って声を上げようとすると、また内奥を深く突かれる。
総身にびりっと快感が通り抜けた。
ランディは時々おれの反応を楽しむようにゆっくり動いたり、かと思えば性急に押し込んできたりを繰り返す。
ねだれ、欲しがれと再三促されても応じないおれに焦れたのか、ランディは首筋に噛み付いて痛みを残していく。脳が麻薬でも分泌しているのだろうか、その痛みは甘く感じられた。
そうしてランディの動きに翻弄されながらおれの体はまた昨日の快楽を思い出していく。

「はぁっ・・・ああ・・・っ、も・・・だめ」
「ロイド・・・ロイド・・・」

上がってくる息の中でランディは何度もおれの名前を呼ぶ。
その声はどこか必死で、鼓膜に焼き付いてはなれない。
この数日ろくに会話は無かったがおれを呼ぶ声は何度も聞いた。
必死で、余裕なんか微塵も無い。それがおれを喜ばせることには気づかないふりをした。
その声に、この腕に抱かれて、またイかされる。
頂上がもう間近に迫ってくると何かにしがみついていないと不安で、おれは何度も腕を振り上げた。
ランディはそれを察したのか紐を解いて手を解放する。
おれは解放されると同時に身も世もなく自分を犯す相手にすがりついた。
内壁をえぐる卑猥な音と肌が当たる音が耳を打つ。
迫ってくる快感に身を押し流されて、でも理性はどこかにあって。
気が狂いそうな中とどめを刺される。
ぐっと最奥を貫かれて足ががくがく震えた。

「は・・・っ、あっ、だめ、だめぇっ、い、あっ───」

顔を歪ませて自分の吐精を眺めた直後、内部に弾けたランディの精を感じて身震いした。
また、同じことの繰り返しだ。
ランディはきっとこの後何事も無かったようにおれの始末をして出て行く。
けれど、ランディは体を動かさず、おれをじっと見ていた。
そしておもむろに口を開く。

「ロイド・・・」

柔らかい声。心配そうに覗く表情。
今まで見なかったそれに、おれは眩暈する。
ランディは荒々しかった先程の行為とは裏腹に、優しくおれの髪を梳く。
手痛い行為の後にほだされそうになるその動きにおれはまた泣いた。
本当は優しくしてくれようとしているのだろうかと錯覚する。
撫でられて軽く唇に触れてくる感触に素直に身を委ねてしまう。
舌を差し入れられれば、抵抗できない。
得体の知れない、何かじわじわと胸に侵食してくる感情があった。



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