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俺は嘘をつき続けなければいけない。
自分にも、彼にも、周囲にも。
女神は果たして俺を許すだろうか。
彼は、俺を許すだろうか。

許されたくて真実を言うのは簡単だ。
だが、それは出来ない。
許されなくとも彼が救われることの方が大切だ。



ロイドが支援課に戻って一ヶ月。
この一ヶ月付っきりと言っても良い状態だった。
ロイドは悪夢を見ることが変わらず、それによって精神的に参っていった。
俺がいないと決まって悪夢にうなされると言うので夜寝る時も一緒だ。
キー坊がロイドと一緒に寝れないと少しむくれていたがロイドの体を心配しているのは同じらしい、あまり強くは言ってこなかった。
細くなっていた体を食事とトレーニングで鍛え直すのを手伝ったり、支援要請のない日は一緒に過ごして睦みあったりした。
しかしそうしているうち、ロイドは次第に内向的になっていった。
無理に外を連れまわすとすぐに疲れてしまい、ぐったりとしている事が多い。
原因は悪夢なのか、どうも俺以外と一緒になる空間に怯えているらしかった。
医者にも教会にも様子を見てもらったが、抑うつ状態という双方の診断だった。
俺といる以外の時間、ロイドはぼんやりと気力なくいるというお嬢の話を聞いて、俺は必死でロイドとの時間を作った。
お嬢やティオすけに男同士で気兼ねがないからだなんて言い訳をしながら、まるで償いをするように傍にいた。

ティオすけもそうだが、お嬢は特にロイドのことを気にかけていたらしく、何かと様子を聞いてきていた。

「ねえ、ランディ。ロイド大丈夫なの?」

俺が晩飯の支度にかかろうとしているところだった。

「本人はそう言ってる。俺の目から見ては・・・まあ体は健康体だ。夜一人じゃ寝れないって言う不安定なところはあるがな」
「お医者様は何て?」

医者に連れて行くのも俺の役割だったのでお嬢達は俺からの情報以外は入っていない。
元々そういうところはあるが、ロイドはあまり自分から自分のことを喋らなくなっていた。
お嬢達とも積極的に関わろうとしない。

「一種のストレス障害ってゆーのかね。抑うつの傾向があるとは言われたけどな」
「仕事への復帰は何て?」
「まあしばらくは様子見だとよ」
「そう・・・」
「薄皮を剥ぐように・・・って表現が適切なのかね。そうして様子を見ていくしかないんじゃねえのか」
「そうね、こういう事は周りが焦っても始まらないものね・・・」
「とりあえず今は精神薬と抗不安薬、それに睡眠薬の投与を受けてる。それで凌げるだろう」
「ロイドは、私やティオちゃんと顔を合わせる事も減ったわね」
「まあなあ。ただ、落ちるところまで落ちたら後は浮上するだけだ。どうにかなるだろ」

お嬢はふう、と溜め息をついて座っていた椅子から立ち上がる。

「ロイドの事、よろしく頼むわね。お兄さん」

お嬢はそう言って端末に向かった。
言われなくとも元よりそのつもりだ。
俺はキッチンに入りビーフシチューの味見をする。
今日は会心の作だ。誰よりも先に味を見て堪能する。
これならロイドも喜んで食べてくれるに違いない。

「ん~、俺意外と天才」
「独り言が大きいです、ランディさん」
「うおっ」

味見用の皿を落としそうになる。

「ティオすけ驚かせるなよ」
「私はさっきからここにいましたよ」
「え、そうなの」
「ランディさん、ちょっと話したいことがあるのでこれから構いませんか?」
「お、おお?ここじゃ駄目か?」
「私の部屋でお願いします」
「ああ・・・?分かった」

俺はコンロの火を消しエプロンをはずして、ティオすけの後を追う。
やはりロイドのことだろうか。
少々嫌な予感が拭えなかった。
ティオすけの部屋をノックすると、どうぞ、と中から声が聞こえる。
それに従い中に入る。
ティオすけは自分専用の端末を操作しながら、おれに座るよう指示した。

「見て頂きたいものがあります」
「なんだ?」
「これです」

透明なビニール袋に入れられた一本の線、いや、髪の毛か。
それは、赤い・・・。赤?

「これが、ロイドさんのいた牢屋から押収された品の一つです」
「それが?」
「これに男性の精子が付着していました」
「・・・・・・」
「率直にいます。ランディさんのDNAを調べてみないことには分かりませんが、私は現状あなたがロイドさん監禁の容疑者であると思っています」

女神はやはり見ている。
必ず購わなければならないのだと。

「明日にでもランディさんのDNAを調べてみたいと思っています。同意して頂けますか」

ティオすけの目は厳しい。
俺はうなだれて頭を振った。

「いや・・・良い。ティオすけの言うとおりだ。俺がロイドを監禁してた」
「いくら調べても出てこないわけです。身内の犯行とは。私も気づかないなんて馬鹿でした。・・・しかしランディさん、なぜあんなことを・・・?」

ティオすけは冷静に尋ねながらも、わずかに歯を食いしばる。
感情をあらわにするなんて滅多にない彼女の様子に俺は何と言ったものかと思う。
それだけロイドの存在というのは大きいものだったのだ。

「ティオすけ・・・その情報は今どこまでいってる?」
「私と、鑑識しか知りません」
「じゃあどうか、見逃しちゃもらえねえか」
「・・・何を・・・」
「ロイドは俺がいないと駄目なんだ。今俺が傍から離れるわけにはいかねえ」
「なぜそこまでロイドさんにこだわるんです」
「・・・あいつは、俺の、恋人だからだ」

ティオすけは淡々とした表情で、その言葉を聞いていた。
しばし考えた後、おもむろに口を開く。

「ロイドさんの合意があったのなら話は変わってきますが、ロイドさんの衰弱ぶり・・・あれは明らかな虐待と取れます」
「それは否定しねえさ。最初は合意もへったくれも無かった」
「アルテリアに行ってから、ですか?お二人の関係が変わったのは」
「いや・・・牢の中でもう・・・ただロイドの精神状態がおかしくなってた」
「おかしく、とは?」
「いたぶられる事が愛されてる事だと錯覚してた。俺はその様子を見て頭が冷えたんだ。ロイドの記憶を消そうと思った」
「それでアルテリアへ?」
「ああ・・・・。頼む、あいつが全てを知ってまたおかしくなるかもしれないのが俺には耐えられないんだ・・・それに今も悪夢にうなされたりしてる、精神的におかしいんだ」

俺はテーブルに手をついて頭を下げた。
次に降ってくる言葉に怯えながら。

「全てはランディさんのエゴですね」
「・・・・っ、」
「自身の思うようにロイドさんを操作しているように思います。結果的にロイドさんはあなたのものになったわけですし」

ティオすけはテーブルに頬杖をついた。
そして髪の毛の入ったビニールを手に取る。
しげしげとそれを眺めてから、また俺を見やる。
結論を促されていた。

「それでも・・・俺はあいつが普通の生活の中で普通に笑ってる姿が良い」

本心はそれだけだった。
そのために俺が犯人として手錠をかけられるのならそれでも構わない。

「ロイドさんのためのように見えながら、全てはランディさん自身のために帳消しにしたと・・・」
「まあ、・・・そう、だ」
「ですが聞きかじった話ではあの類はきっかけさえあれば記憶が全て蘇ってしまうそうですね?」
「記憶を消した・・・と言うか封印した神父は一種の暗示をあいつにかけた。恋人が傍にいれば記憶は蘇らないってな」
「それで暇さえあればロイドさんの傍にいるわけですか」

ふむ、とティオすけは全て得心がいったような顔をする。
すっと立ち上がってティオすけは俺に髪の入った袋を渡す。

「ティオすけ・・・?」
「鑑識には黙っておきます。・・・ランディさん、私は過去の経験から絶対にあなたを許せません。ですが・・・」

ふう、とティオすけは溜め息をつく。

「ロイドさんの幸せはランディさんが握っている。そういう事なんですね」

ティオすけは少し表情を和らげた。

「ロイドさんの幸せを願っているのは、何もランディさんだけじゃありません。私達に出来ることがあるのなら遠慮なく言って下さい」

ティオすけはそう言って、話を終わらせた。
部屋を出て手にしたビニール袋を眺めながら、俺はずるずるとその場にしゃがみこむ。
女神は、きっといる。
俺とあいつの間を引き裂かないために、存在している。


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