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ああ、また同じ夢を見る。
ランディ、と叫びながらおれは犯される。
だが、よくよくその姿を見ると、それは確かに見知った人物だったのだ。
核心が、見えてしまった。




勢い良くおれは起きた。
汗でぐしょぐしょになった額を押さえて、胸の動悸をどうにか鎮めようとする。

(あれはランディだった・・・?)

ランディがおれを犯していた?
そんなはずはない。おれを助けてくれたのも、今助けてくれているのもランディだ。
だが、夢の核心は確信に変わる。
嗅ぎ覚えのある香り、抱きしめられた感触、口付けの仕方、全て全てその時の記憶なのではないか。
それに。

───本当はお前をこの手に抱く資格なんか俺にはないんだ

ランディのあの台詞。
符号が揃う。
記憶は全く蘇ってこないのに、確信があった。
ランディに聞かなくてはいけない。
しかしまともに聞いて口を割るとは思えない。
自分が監禁されていた時、どういう精神状態だったろう。
想像がつかないが、一計講じるのも手だろう。
おれはだるさが抜けないまま、部屋を出た。
今日はみんな支援要請で出払っていたので都合がいい。
課長の部屋に入って心理関係の書籍をあさった。
中に、監禁されていた女性の精神状態を書き記しているものがある。
おれはそれに目を留めて読む。

女性は自身の夫に監禁され、5年の間強姦や暴行を受けていた。
当初、女性は抵抗していたが、監禁時間が長くなるにつれ従順に従うようになったと夫が供述。
夫の意向を汲み取り、性の虜になり、心神喪失状態に陥るに至る。
保護された後、聖ウルスラ医科大学で手当てを受けるが異常な自慰行為等がやまず、アルテリア法国にて記憶操作の治療を受けた。

(おれも・・・こうなっていたんだろうか・・・)

背筋を冷や汗が伝う。
しかし続けて先を読んで疑問が浮かんだ。

女性は治療後通常の生活を送ったが、新聞紙面に記載のあった婦女暴行事件を読んだ事がきっかけで記憶が戻る。
その後、記憶操作の治療を再び受けるが度々記憶を取り戻した。
記憶が蘇る辛さに耐え切れないとの遺書を残し、自殺した。

おれは本を勢い良く閉じる。
女性の精神状態を思うと冷や汗が止まらず、吐き気を催す。
幸いないことにこの資料を読んでもおれに記憶が蘇ってくることは無い。
ランディが言っていたあの暗示のせいでおれは何も思い出すことが無いのか。
それならば真実を知ってもおれがおかしくなることは無い。
今この事実を知ってなおランディに対しての想いが消えていないからだ
どうしてか、と問われてもそれは人の心だ。理屈でどうこうなるものではない。
だが、真実を知りたい。ランディの口から聞きたい。
どうしておれにそんなことをしたのか。
おれはランディに一芝居打つことにした。

都合良くみんなが帰ってくる気配がした。
おれは急いで2階に上がり布団に潜り込む。
昼ご飯はいつもランディが持ってくる事になっている。
ランディは、果たして誘いに上手く乗るだろうか。
しばらくして、階下がにぎわい始めた頃、階段を上ってくる音がする。

「ロイドー、飯だぜ」

ノックの音と同時に扉が開く。

「寝てんのか?」

ベッドの脇に寄ってきたランディはテーブルにトレーを置いておれを覗き込む。

「なんだ、起きてるなら返事くらいしろよ」
「ランディ・・・」
「ん、なんだ?」

おれは体を起こしてランディにしなだれる。

「おいおい、こんな時間からお誘いか?」
「して・・・滅茶苦茶にして・・・・犯して、痛くして」
「・・・・ロイド・・・?」
「体、が、熱いんだ・・・おかしく、なりそう・・・」

ランディの表情がみるみるうちに青ざめて行く。
おれはズボンを下ろして自分で扱き始める。
ランディのズボンの前もくつろげて取り出し、頬張る。

「ん、んっ」
「ロイド・・・!やめろ・・・!畜生、どうなってやがる。おいロイドやめろ!」

ランディは無理やりおれの口から自分のモノを引き抜くと、おれの手をねじ上げた。

「いやぁっ、させて・・・!」
「駄目だ!くそ、なんだって記憶が戻ってんだ・・・あの時と同じじゃねえかっ」

やはり、ランディはおれがこういう状態だったと知っている。

「ロイド・・・!お前は俺じゃない俺を見てるだけだ、目、覚ましてくれよ!」

俺じゃない俺、とは意味が分からなかったが、とにかくランディは全て知っている。
それが分かっただけで十分だ。
おれはばたつかせていた手足を落ち着かせる。
ランディは大人しくなったおれを見てホッとしたのか、自分のズボンの前を閉め、おれにズボンをはかせる。

「ロイド・・・、またアルテリアに行って・・・」
「その必要はないよ」

おれはランディの目を真っ直ぐ見る。
ランディはぎょっとしていた。

「なかなか、・・・名演技だったかな」
「お前・・・」
「だまして悪かった。でもお互い様だろ。・・・おれの監禁と強姦は全部ランディの仕業だったんだな」
「・・・・っ」
「心配しなくても、記憶は戻ってない」
「じゃあなんで・・・」
「・・・俺がやったのか分かったのか、だよな。・・・───夢が、教えてくれた。あの悪夢は全て符号だったんだ。ランディに繋がる」
「ロイド・・・」

ランディは言葉を失って立ち尽くしている。

「全ての記憶を思い出したわけじゃないから辛いってことはない。他人事だよ。でも、なんでそんな事したんだ」
「あ・・・・・、ロイド、違うんだ、俺はただお前が、好きで・・・」

狼狽の色を濃くして、ランディはその場にしゃがみこむ。
おれはランディの肩に手を乗せた。

「おれも、好きだよ」
「え・・・」
「事実を知ったからってランディに対する気持ちは変わらない。不思議と記憶も戻らないし」
「ロイド・・・」
「どんな魔法使いに俺を診せたんだ?」

ランディはうずくまって顔を伏せながら、おれに問うた。

「・・・・何から、話せば良い・・・?」
「そうだな・・・話せるところからで良い・・・ランディが辛いなら無理して聞かない」

しばらく沈黙が続いたが、ランディはふと立ち上がっておれの隣に腰掛ける。
そしておれを抱きかかえる形でぽつぽつと語り始める。
話は上手く転がらず、事実と違う部分も入り混じりわけの分からないものだった。
だが、なんとかしてランディは真実を伝えようとする。
おれは黙って全てを聞くことにした。
次第に話がまとまっていくと、ランディの涙とおれの涙が入り混じる。
ランディの想いが痛い。
痛みが伝わってきて痛い。
おれを閉じ込めたのは確かに間違いだったかもしれないけれど、そこで芽生えた感情は本物で。
おれを何とかして救おうとしてくれたのは事実で。
おかげで今おれはここにいる。
ランディの隣にいる。
確かに愛していると言える人の傍にいる。

ランディは話せることを全て話し終えたあと一言、ごめんなと言う。
おれは首を振った。

「───・・・おれ達は・・・長い回り道をしただけだよ」

ランディの手を握ると、確かに握り返す感触があった。
涙で濡れた鮮やかな碧い目を見る。
幸福の色がそこにはあって、おれは思わず微笑んだ。
どちらからともなく静かに口付けて微笑み合った。


───生きるということ、それは、あなたと手を繋ぐこと。

どうかこの先この人とずっと歩んでいけますように。

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