忍者ブログ
123

×

[PR]上記の広告は3ヶ月以上新規記事投稿のないブログに表示されています。新しい記事を書く事で広告が消えます。

───俺は間違っても野郎と付き合うなんて願い下げだね。

どういう事だろう。
そんなこんなのほにゃららとかもあったし。
最初は流されてた気もするけど、ちゃんと今はランディのこと好きだし。
それなのにあの台詞って。

「そういえば・・・ちゃんと好きって言われるのってベッドの中だけだった」

おれ、もしかして遊ばれてた?
男で可愛い(らしい)おれが後腐れなくてちょうど都合が良かった?
実際してみたら、体の相性が良くて良かった?
おれの体が好きってこと?

駄目だ。考え始めるとマイナスの思考が尽きないし堂々巡りだ。
おれは当てもなく裏通りをとぼとぼ歩く。
今酷い顔をしてるだろうな。
客引きがおれの憔悴しきった様子を見て、気晴らしにどうでっかなんて声をかけてきて無理やり袖を引こうとする。
おれは警察手帳を見せて無理な客引きは違反だと八つ当たり半分の気分でつらつら言った。
客引きはえらいすんませんなんて言いながら、おれが立ち去ると唾を吐く。
おれの方が唾でも吐きたい気分だ。
ちゃんとランディと話せれば良いんだろうけど、おれは逃げ出してしまった。
決定的な言葉を聞きたくなくて。
もしおれのマイナス予想が大当たりなら、これほど滑稽なことはない。

『男相手にマジになるとか、ないだろ』

言いそうだ。今日の調子を見る限り。
そんな事言われたら再起不能だ。
だって誰がどう言おうとおれがランディを好きだという事実は変わらない。
好きな相手にそこまでばっさり言われてのんびりしていられる程お人好しでも図太くもない。
そういや警察学校での友人が勉強時間冗談半分に言っていた。

『お前って、一途そうだしなかなか人のこと好きにならなそうだから、運命的な恋になりそうだな』

なんで知ってたんだ。
確かに運命的かもしれない。
支援課なんて特異な場所で知り合った兄貴分で、相棒で、男で、おれの想い人。
でもその運命がこれだろ。
あんまりだ。
いや、まだランディの気持ちを確認したわけじゃないから分からないけど。
でも・・・。

「や、どうしたの?」

随分下を向いて歩いていたらしい。声をかけられて、その人物の足元だけが映る。
この格好は、知っている。
おれは顔を上げてその人物に目線を合わせる。

「ワジ・・・」
「随分疲れてるね」
「はは、」

おれが誤魔化すように笑うと、ワジは首をかしげる。
ワジの察しの良さは折り紙付きだ。何かさとられる前に別れようと思っていると、腕を掴まれた。

「珍しいね、ロイドが歓楽街にいるなんてさ。何か事件?それともカジノで憂さ晴らし?」
「え・・・?」

言われて見て初めて自分が歓楽街にいる事に気づいた。
気づかないうちにランディの来そうなところに来ていたのかもしれない。
もしかしたらおれのおかしな様子に気づいて追いかけてくるんじゃないかという期待もあった。
それが嫌になる。

「いや、ちょっと考え事してたらこんなところに来ちゃって」
「ふうん」

ワジは含み笑いを浮かべて、おれの腕を放す。

「是非その考え事ってやつ聞いてみたいね。そんなにロイドの顔を曇らすなんて興味深いし」
「いや、それは・・・」
「捜査上の守秘義務?」
「違うけど・・・ワジには関係ないだろう?」
「関係大有りだね」
「なんで」
「だって僕は君が好きだから、これで答えになる?」
「な、何言って・・・」

戸惑った声を上げると、とワジは笑い声を上げる。
からかいやすいなあ、なんて言いながらワジはおれの腕をまた掴む。
今度は放すまいとするように強く掴まれた。
こんなに華奢な体のどこにそんな力があるのだろう。

「好きって言うのは色々種類があるものだよ。すぐに恋愛感情に意識が向くってことは考え事は色恋かな」

やっぱりさとられた。
指摘されて何も言えなくなる。
さっさと退散するべきだったのに、おれは何か縋りたかったかもしれない。
つい、うなづいてしまった。

「アドバイスの一つや二つ出来ると思うよ」
「そう、かな」
「まあ、解決するのはロイドだけど。ここじゃ難だし、ミレニアムで聞こうか」

腕を引かれるまま、ミレニアムに足を向ける。
ランディがその頃裏通りを駆けてきているとは知らなかった。




ワジはカウンターで休憩と言ってミラを払ってしまう。
相談するのはおれなのだからおれが払うと言ったのだが、興味本位に付き合わせてるのは僕だよと言われた。
2階右手の一室に入ると、ワジはすぐにベッドに寝転がった。

「はー、ベッドって良いよねえ。寝てる時って幸せ」
「ミレニアムは高級ホテルだから、確かに寝心地も良いよね」
「ふふ、まあそれもあるけどね・・・」
「?」

同じように向かい側のベッドに腰掛けたおれに、枕を抱きながらワジはじいっと視線を送ってくる。
猫のような目が少し弧を描いて微笑んだ。

「・・・さっきより良い顔になってる」
「そう?」
「大概、浮かない顔をしてる時って自分一人で抱え込んで鬱屈としてるものだから、誰でも良いから話す方が精神衛生上良いんだよ」
「そうかもな・・・ワジに話すなんて思ってもみなかったけど・・・」

まだ抵抗はある。
ワジが受け入れるかどうかは心配していないが、いかんせんこういう悩みは人に話したことがないだけに何から話そうか悩む。
おれが指をもてあそびながら、頭の中で考えをいじくっていると、ワジが口火を切った。

「・・・それで、何があったの?」

ワジは体を起こした。枕は抱えたまま、脚を組んでいる。
やや真剣な顔つきにおれは目をそらす。

「話せるところからで良いよ。わけが分からなくなっても良い」

おれは話し出そうと呼吸したが、声になる前に息は抜けてしまう。
ワジは変わらずにおれをじっと見ている。
その視線に耐え切れず声が出た。

「遊ばれてたら・・・どうしようって」

おれが一番気がかりなところはそれだろう。

「ロイドはその相手に真剣なんだね」

無言でうなづく。

「その根拠は?」
「相手が、おれのいないところで言ってた言葉を聞いちゃって」
「どんな台詞?」
「その、間違ってもおれとは付き合わないって」
「ふむ、相手の気持ちは聞いてないの?」
「聞けなくてもやもやしてるところ」
「まあ、真実を知るのは怖いよね」
「そう、そうなんだよ」
「でも結果が全て悪いとは限らないじゃない?」
「どうだろう・・・」

おれがまたもやもやし始めると、ワジは切り口を変えた。

「告白はされてるの?」
「されてる、ような、そうじゃないような・・・」
「曖昧だね、どうして?」
「その・・・してる時、だけ、だから」
「意外、ロイド大胆だね。する事はしてるんだ。ああ、気を悪くしないで。驚いただけだから」

ワジは目を見開いていた。興味津々と言う顔。
おれはそう言われて一気にランディとの情事を思い出して顔を赤くした。

「何かさ、ロイドの反応、女の子みたいだね」
「い・・・っ?」
「好きな男がいるって感じ」

おれは溜め息をつく。参ってしまった。
まあランディの名前さえ出さなければ、別に良いかもしれない。
おれはまあ、男だよと呟いた。

「男なんだ」
「うん」
「嫉妬しちゃうね」
「え・・・?」

ワジはおれの隣に移ってきて顎を取った。

「さっきも言ったけど、僕はロイドの事好きだよ」

ワジはそう言いながら、さっきの調子とは違う含みで好き、と言う。
照れも迷いもなくそう言われると、掻き乱されていた心がぐらつく。
弱っているところにそれは反則なんじゃないか、と思った。
ワジの良いようにされている気がする。

「僕はロイドをそんな顔にしたりしないよ」

そんな曇った顔になんて。

ワジの端正な顔が近づいてくる。
何をしようとしているのか、明確だったけれど、おれは動けなかった。
それは身を任せようとか、ワジにほだされているとかではなく、ランディがこれを知ったらどう思うだろうという思いつきだった。

『俺以外とヤった?いちいち話すことでもねえだろ』

胸が痛む。
そう言われたら、どうすれば良い?
ワジは簡単におれの口を吸って、舌を差し入れてくる。
ランディにされていた時を思い出してその舌の動きに応える。
ランディより薄い舌の感触が口腔でぬめる。
これはおれの知っているものと別物だ。良いんだろうか。背徳感が背筋を駆ける。
おれはランディのものでいたいんじゃないだろうか。
例えばランディが本気でなくても、おれが一方的に好きでいればそれでも良いんじゃないだろうか。
でもここで抱かれてしまえば、後のランディの反応はすぐに分かる。
決定的な言葉を自分から聞くより遥かに楽な気がした。

「迷ってるね・・・」

ワジは唇を離しておれを押し倒す。

「良いよ、そんな簡単にシフトチェンジ出来るなら色恋で悩む奴なんかいないし」
「ワジ・・・」
「忘れるまで、抱いてあげる」

そう言われてやっぱりだめだ、と思う。
そんなの間違ってる。
おれは首を振った。
だがワジは気にしない様子で、おれの首筋に口付けてきた。
チリ、と軽い刺激が走って、これは跡が付いたなと思った。

「ワジは、おれの心が違う方を向いてても気にならないのか」
「恋に横槍を入れるときにそんな事気にしてられない。まして手に入るかもしれない機会を自分で潰すなんてこと僕はしない」

ワジの手はおれを撫でる。
頬から顎、首筋、鎖骨。服の裾をまくられ背を大胆に撫でられる。
それだけでびくりと体が動いた。

「っ・・・ぁ」

ランディの手と違う。細長い、華奢な指。
思わず掴んだ肩もあのがっちりした肩とは違う。
何もかも違う。
けれど体は反応する。
流されてしまいそうだ。
心の中でランディの名前を繰り返す。
おれが抱かれたら、怒ってくれないだろうかと。

「ふふ、ロイドって敏感なんだ」
「うるさい・・・」

声に覇気はなかった。
ランディの事が気にかかる一方で、今優しくされる事に無抵抗になってしまう。

「褒め言葉だよ。何なら、今階段駆け上がってきてる音の主に同意を求めたいなあ」
「階段・・・?」

ワジは構わず先に進もうとする。
服の裾をさらにまくりあげ、胸の突起を舐められて変な声が出る。
と、その時確かに凄い音で階段を駆け上ってくる音が聞こえた。
音はその勢いのままおれ達のいる部屋を豪快に開ける。

「ロイド!!!」
「ランディ!?」
「ああ、見つかっちゃった」

ワジはあはは、と笑いながら気まずい様子もない。
そこでおれは、ワジが本気でいたわけではないと言う事を察する。
どうもこういう場面になると想定していたような反応だ。
だが、ランディの勢いは収まらない。
足元のゴミ箱を蹴り飛ばして柄が悪い事この上ない。

「てめえ!何してやがる!?」

ランディは総毛だって部屋の中に入り込んでくる。
おれの様子を見てランディは怒りのようなものを撒き散らしている。
ワジの首元を掴みあげると、睨みつけていた。
おれは慌ててそれを制止する。

「ランディ!違うんだ、ワジは・・・」
「お前こいつに何されたか分かってんのか!?それともお前もそのつもりだったのかよ?!」
「それは・・・」
「え、ロイド・・・?」

おれの様子にランディははっきりとうろたえた。
おれはそれを見て、安心していた。
うろたえたと言う事は、おれのマイナス思考はまず否定されたわけだから。
最低だ。こんな確認の仕方。
ランディの顔を見れずに俯くと呆れた声でワジが間をとりなす。

「まあまあ、とりあえず。恋人のご登場で役者は揃ったわけだ。手、離してくれる?」
「お前、よくもそんな図々しい・・・」

ワジはランディの手を包み込んでにこにこ微笑む。

「事の次第、聞きたいでしょ?」

おれも警察が私闘するわけにはいかない、という。
ランディは暴行現場を押さえたって事になるだろと言っていたが、まったく抵抗しなかったのはおれだ。脅されたわけでもない。ワジは暴行していたわけではない。
一息にそれを言ってしまうと、ランディは驚いたような複雑そうな顔をする。
そして不承不承と言う顔で、掴んでいた手を離す。
ワジはさっきまでおれを押し倒していたベッドに腰掛ける。
おれとランディは並んで立ったままそれを見ていた。

「あるところに・・・可愛い子犬と大きな犬がいました」

ワジは唐突にそう語りだす。
疑問符を浮かべてその語りを聞く。

「子犬と大きな犬はとても仲良しの恋人でしたが、子犬はある日勘違いをしました。大きな犬が自分のことを好きじゃないと言っていたのです。それは大きな犬が周りに対してついた嘘で、本心じゃありません。ですが、純粋な子犬は本気に取ってしまいました。
子犬は大好きな大きな犬の元を離れて猫のいる村まで行きました。
猫は大きな犬の嘘を見抜いていましたが、子犬が好きだったので黙っていました。あわよくば、子犬が手に入るかもしれないと思ったからです・・・」

ワジはそう話すと、間にふうと溜め息をついた。
恋の仲裁なんて面白くないなあなんていう。
ランディがイライラした目線を向けたもので、ワジは話を続けた。

「けれど、猫は大きな犬の方がずっとずっと子犬の事が好きだと見せ付けられてしまいました。猫は潔く身を引く事にしました」

ワジは話し終えると、ま、こんなもんでしょ?と言っておれ達を見る。
そして立ち上がるとドアの前まで行ってしまう。
振り向いてにこっと笑うと

「油断してたら僕が横からさらうよ」

と、ランディに向かって言った。
冗談じゃない様子だったので、また一触即発しかねないのでは、とおれはランディの腕を押さえた。
ランディはそれに気づくとおれをかばうように立ち、ワジにしっしと追い払う仕草を取る。

「ふふ、その様子ならしばらく僕の出番はないかな・・・。あ、そうそう、時間延長しておくからあとはご自由に。じゃあね」

ワジは呆然としているおれ達を置いてさっさと部屋を出て行ってしまった。
ワジがおれに言った好きは本気だったのだと思い知って、また悩み事が一つ増えた気がした。

PR
  top  
忍者ブログ [PR]