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「こりゃまあ何て言うか、よく残ってたな」

ランディは腐った木を踏み抜かないように、慎重に進む。
部屋はワンルームとも言いがたいほど小さく、天井は屈んでいないと頭が引っ掛かる。辛うじて残っていた天井のトタンもほとんど穴だらけになって、屋根の向こうは空の青さが眩しかった。
ランディは持ってきたブルーシートを床に広げて、そこに導力ランプを置く。
屋根から差し込んでくる光で大分明るいから、ランプはいらなかったかもしれない。
おれは隣り合わせで座る。小窓が目に入った。
小鳥が一羽やってきてまた飛んでいった。

「しかしお前も唐突だな、秘密基地に行きたいとか」
「この間ふっと思い出してさ」

おれはふふっと笑いながら、ランディの横にある崩れかかった棚を指差す。それを指差されてランディは横を向く。錆びた空き缶やぼろぼろの釣り道具が並ぶなか、鈍く光る石が置かれていた。
大きさはビー玉程度、いびつな形をしている。
ランディは棚から石を取り上げて、おれに寄越す。

「セピスじゃないよな?」
「うん、セピスだったらここは今頃魔獣に壊されてる」
「ふーん、何て言うんだ、それ」
「アレキサンドライトって言うんだ」
「あ、あれき・・・?」
「はは、ちょっと舌噛みそうだよね。価値はないけど鉱石の一種でセピスと一緒に出てくることがあるんだ」

おれは傾いている机の上にそれを置く。
ランプの明かりに照らされてそれは赤く光っていた。

「ランディ、ランプの明かり消してくれる?」

言われて消すと自然光に照らされて、石は見る間に変容する。
鮮やかな碧。ランディの瞳の色のような碧色。

「これが見せたくてさ」
「へー、すげえな」
「ランディみたいだろ」
「俺?」
「火のように熱くなったり、湖みたいに深くて優しかったり」

おれはヴァレリア湖の写真を眺めていてここを思い出した、と言う。
しかしランディは恥ずかしい、そんな評価をされていたのかと思うと背中が痒くなったと言う。
おれなりに良い評価のつもりだったんだけど。

「それで・・・俺のベッドの中の姿でも思い出したのか?」
「そういう事じゃなくてさ」

おれが照れるかと思っていたのか、普通に笑ってやるとランディは肩透かしを食らう。
火のように熱く抱いた後に、湖のように優しく抱きしめてるだろと言われ、まあそれもそうなんだけど・・・と言う。
さすがにそれは照れた。おれは鼻を掻く。

「環境によって色を変えられるって、おれには出来ないからさ」
「くらげみたいな生き方って言われてる気もするけどな」
「ふわふわしてるって意味じゃないよ。ちゃんと基礎はあるけど、シーンによって切り替えが出来るって意味でさ」

とにかく、この石はランディにもらってほしいんだ、と言った。
それに面食らったのかランディは変な顔をする。おれが何の気なしに渡すと、これは元々、違う人間のために存在していたのじゃないかと言われた。
そう言われて、かつてここにも顔を覗かせていた人物がよぎる。

「ガイさんのためのものじゃないのか?これ」

おれはその問いの返答に少し躊躇って、胡坐を崩す。足を抱えて座りなおすと、膝の上で腕を組んだ。
その躊躇いはランディに兄の面影を重ねているようで悪いと言う気兼ねからだ。
目線を斜め下に下ろして、過去を振り返る。

「兄貴が持ってきてくれたんだ、それ。なんかお守り代わりとか言って」
「じゃあ俺がもらうわけにはいかねえだろ」
「いや・・・ランディに持ってて欲しいんだ」
「・・・そう言うなら、まあ構わねえけど、何でまた」
「兄貴に、おれの大事な人を守ってもらいたいから・・・かな」

ランディは豆鉄砲を食らったような顔をする。
おれの方は普通に喋っているだけなのだが、どうもランディにとっては本来の意味と別の意味も含まれているように感じたようだった。
大事な人ね、とランディは言い、急激に笑いが溢れた。

「クク・・・どうしようもねえな、お前」
「?何が」
「いいや、何でも。この兄貴たらしはガイさんがいた時からか?」
「兄貴は・・・確かに俺に甘かった気がするけど・・・」
「しかしそんな石があったら下手に自分の部屋でエッチも出来ねえな」

なんでさ、とおれが不思議に思って尋ねる。
当たり前だろう、こんなものがあったら見張られている気がすると言う。
俺の可愛い弟に手を出しやがって、そんな風に夢にでも出てきそうだとも。

「じゃあ、受け取ってくれない?」
「いんや、受け取っておく」

おれはそれを聞いてホッとする。

「ガイさんの想いがここにあるんだな」
「うん・・・」

兄貴の想いがここに残っていると思うと、不思議な感覚があった。
弟想いの、敏腕の捜査官。その彼が仕事の合間を縫ってこれをおれに届けに来たと言う事。それは多分、いつも一緒にいられる証としての想いだったのだろう。
肌身離さずこの手の中に兄の思いを抱くのが正しいのかとも思ったが、今は大切な人に抱かれている。
だからこのおれを抱いてくれている人を守ってくれますようにと、祈りを込めたかった。


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