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ランディが出て行った部屋はがらんとして静かだった。
ほんの少し前まで疑わずにいた、いや、疑わないようにしていたランディの気持ちを知ってしまった。
思えばおれを抱きしめる事が無かったのも、口付ける回数の少なさも、ベッドだけで聞いた睦言も全部おれの体目当ての言動だったんだ。
やはり決定的だったのは今日。
面倒そうに慣らしたり後始末をしたりする顔は知っていたけれど、それも気にしないふりをしていた。
だけれど、今日のランディは調子に乗ってというのではなく、もうおれを恋人としてではなく都合の良い体としてみている気がした。
行為の最中から感じていたその疑問をぶつけるにぶつけられず、口を閉ざしていたけれど、もうどうしようもなくランディの気持ちが気になって聞いてしまった。
行為の後を伝える精液が太股を伝い続ける。
棒立ちしていたおれは、ベッドに戻って後ろに手を伸ばした。
先程まで入っていた熱を思い出す。

───男相手にマジになるとか、無いだろ

痛い。心が悲鳴を上げる。
後ろに指を差し込むとぐちゅ、と音がして内部に放たれた精液が零れ出てくる。
内部を引っかくように、やや乱暴に、ランディの言葉を打ち消すように、おれは自分でもこれで良いのか、と言う後始末をした。ティッシュを丸めてゴミ箱に投げるとこつんと弾かれて床に落ちる。
虚しさが、後から後から胸にこみ上げてくる。
ランディは今頃歓楽街に向かっているだろうか。
どこかで女の子を引っ掛けてしけこむつもりかもしれない。
白い柔らかい肌、柔らかい胸、太股、どれも自分には無い。それでいて何でランディはおれを抱いたのだろう。

「少しくらい、好きって事・・・?」

嫌われてるわけじゃない。それがほんのわずか希望になる。だけれど、何か自分とランディの感覚には重大な齟齬があると思った。
話し合わなければ。いや、おれがもっとランディに近づきたいんだ。話したいんだ。

「行こう・・・」

重い腰をさすって、服を着る。
少し足取りは重いけれど、おれはランディと話したい。
好きなんだ。どうしようもなく。
そう思うとわけも無く涙が溢れてきた。




夕方近い歓楽街は多くの人でにぎわっている。
ミレニアムの近くで着飾った女の子がそわそわと腕時計を見たり、初老の紳士と品の良い婦人がアルカンシェルの建物に吸い込まれていく。
おれはランディの行き先が恐らくカジノだろうと目的地を決めてカジノに向かう。
入り口のバニーガールに擦り寄られて困りながら入店した。
鼻を突く煙草の香りに香水の香り、店独特の香りが入り混じってカジノ特有の空気が渦巻く。
入ってすぐ彼はいた。複数の女の子に囲まれてポーカーをしている。
きゃあきゃあと黄色い悲鳴が上がる中、ランディはいつもと変わらない笑顔を振りまいている。
どうしよう、入りづらい雰囲気だ。
さっきまでの意志はどこかに失せて、今はただ帰りたい気分になってくる。
それはランディが余りに普通に過ごしているからだ。
おれの事なんか何でもなかったみたいに。
一つ溜め息をこぼす。

「ねえねえロイド君?どしたの?」

視線を右にやる。受付のチェリーが突っ立っているおれを見て声をかけたのだと気づく。

「その、ランディを呼びに来たんだけど、ちょっと入りづらくて、さ」
「またランディさんお仕事サボり?」
「いや、違うんだ、・・・まあ、皆楽しんでるみたいだし・・・」

チェリーはふうんと言って、にっこり笑った。

「ランディさん、あと一時間くらいすると一人でいつもふらっといなくなるの。だからその頃また来てみたら?」
「あ、そうなのか?じゃあそのくらいにまた来てみる。ありがとう」

思わぬ情報をもらった。
夜中までどこで過ごしているのか、深く聞いた事がないから知らなかったけれど、いつもカジノに入り浸っているわけではないんだ。
おれはきびすを返してカジノを出ようとした。
その時。

「あれ、ロイド?」

丁度入店してきた人物に少し驚く。
彼は腰に手を当て、いつもの微笑でおれを見ていた。

「ワジ、ここは未成年が来て良いところじゃないだろ」
「あはは、ご挨拶だねえ」

ワジはおれの注意なんて聞く気もない様子でホールの中に入っていく。

「あ、ワジ!」

おれは反射的にワジの腕を掴んだ。
おっと、と言いながらワジは振り向く。
おれが再度注意しようと口を開く前にワジが先に口を開いた。

「珍しいね、ロイドがカジノにいるなんてさ」
「・・・ちょっと用があって。まあそれは良いだろ。とにかく・・・」
「ふうん、今女の子に囲まれてるあの彼と関係あるの?」

言われてすぐ表情が硬くなるのが分かった。
さすがに、目敏い。

「ワジには関係ないだろ」
「関係大有りだよ」

ワジは大げさに腕を開く。

「僕はロイドの事好きだからさ」
「あのな・・・、ワジの冗談に付き合ってる暇はないんだ」
「ふふ、本当なのに。余程彼が気になるんだね」

図星を突かれておれは言葉を失う。一瞬のよどみの後、今度はワジがおれの腕を掴んでくる。
ワジは真剣な表情に変わって、おれを見据えてくる。その眼差しに体が縫いとめられた。ワジは何か言いたいことでもあるみたいにおれにゆっくり近づいてきて至近距離で囁く。

「彼とどういう関係?」

ワジの目が猫のように細まる。笑っているが笑っていない。
関係・・・と問われ、ビク、と身が竦んだ。またさっきのランディの言葉が繰り返る。

「キスした?」

顎を取られる。

「それともセックスした?」

腰に腕が絡む。
受付のチェリーがこっちを見て、おれ達の有様に驚いている。
おれはワジの行動に目を白黒させて、何も出来ずにいた。
視界の向こうのランディは振り向く気配もない。おれがいる事に気づいてはいないらしい。
ワジは唇を形作って、次の言葉のために息を吸い込む。

「それとも、───・・・ふられちゃった?」

くすくす笑いながらワジはおれの体を抱きすくめる。
ふられた・・・、その言葉に気が動転して抵抗できなかった。
周りの目を何も気にしない風で、そのままおれにワジの唇が寄って来た。
唇に息の湿りを感じたところでおれは我に帰る。

「何するんだよ!?」

さすがに驚いてワジの体を突き飛ばした。
少しよろめいておれから離れるとワジは舌なめずりをする。
周りを見ると、しかし、皆それぞれの楽しみに興じているらしくおれ達を見ていたのは受付のチェリーくらいだった。

「残念」

ワジはにこりといつもの笑顔でおれに応える。

「ねえ、彼に用ならあと1時間は待つんでしょう?」

何でワジが知っているんだろう。
いぶかしんだ眼差しを向けると、簡単に回答が帰ってきた。

「よくここで彼とも遊ぶんだ。ロイド、知らなかった?」

知らない。おれはランディの交友関係に関心がなかったわけじゃないけれど、聞きすぎてはいけないと思っていた。
ランディがそれで離れていく気がしていたからだ。
思えばそんな事くらいで壊れてしまう脆い関係だったのだ。

「最近彼、上機嫌でさ。イイ遊び相手が見つかったんだって?」
「・・・・な、・・・っ」

それは、誰のことだろう。
考えたくない。

「ふふ、体の具合から反応から、凄くイイって自慢していたよ」

ただね、とワジは言う。

「遊ぶには重たいって」

またワジは笑った。
ランディの背中が視界に入る。
嘘だろ。ランディがそんなことを触れて回ってたなんて。
それ以前に、遊び?じゃああの晩から、ずっとそのつもりで?

おれはたまらず駆け出す。ワジの制止を振り切って女の子の群れの中のランディに詰め寄った。

「ランディッ」

ランディは掴まれた腕に驚いておれの方を向く。
表情はいつもどおりへらりと笑っていた。

「何だよ、緊急の要請でも入ったか?」

さっきの事などまるで無かったかのように俺にそう問う。
変わらない素振りが胸を刺した。

「聞きたい事があるんだ」
「お前なあ・・・今良いところなんだけど・・・急ぎじゃねえなら後にしてくれ」

ランディは面倒くさそうに頭を掻く。
椅子から立ち上がって、おれを見下ろすランディは少し不機嫌な顔で見ていた。
周囲の女の子達が何事かとざわつく。

「ロイド、それ以上聞くなら場所変えた方が良いんじゃない?」

いつの間にか後ろに立っていたワジが言う。
それを見てランディがあからさまに嫌そうな顔をした。
大体の事情を察したのか、また頭を掻いた。

「ワジ・・・お前、こいつに何か吹き込んだな」
「嫌だなあ、僕はありのままを伝えただけだよ」
「チッ、しゃーねえな。場所代はお前が持てよ」
「分かってるって」

ワジはにこにこ笑ってランディと会話していた。
おれだけがそれについていけない。
話すならミレニアムで良いだろ。ランディはそう言って、周囲の女の子達に謝罪していた。


おれだけかもしれないが空気が重たい。
どういうわけかワジも一緒になってミレニアムに来ると言う。
なぜかワジはおれとランディの間に入っている。間を保つように、間を裂くように。
おれはランディのことが気になって何度も顔を見たが目が合うことは無かった。合ったとしても言葉は恐らく出てこないだろうけど。
ミレニアムのカウンターでワジが支払いを済ませている間、おれはランディに何か言わなければと思った。けれど、言葉は色々浮かんできては消える。
ランディとの間に流れる沈黙がこんなに苦しいのは今まで無かった。
沈黙も会話も心地良かったのに。この人の空気を感じるだけで幸せだったのに、今はこの存在が苦しい。なのに求めている。
無意識に身を寄せそうになる。縋ろうとする。
視界の端に映った手を取ろうとしたところで、ワジがこちらに向かってきた。

「2階の右手の部屋だって。行こう」

ワジはおれに手を差し伸べる。
手を取るなんて出来なかったのでおれはただうなづいた。ワジは苦笑して手を下げた。
階段を上る音だけが響く。誰も喋らない。
続く沈黙もある程度続くともう慣れていく。
いつもなら軽口をたたくランディも、ワジも、何も喋らない。
様子を見れば、ランディは面倒そうに、ワジは思案顔で、何をか考えているみたいだった。


部屋に着くとランディは入り口を背に立ったまま、おれはワジに手を引かれて一緒にベッドに腰掛けた。

「さて…、とりあえず何から話そうか?」

ワジが口火を切る。沈黙が長かったせいか、喋り始める前に少し咳払いをしていた。
ランディは足をカツカツと鳴らして落ち着かないようだ。苛々しているようにも見える。

「お前が仕切るもんでもねーし、正直俺から話す事なんかないんだけどな」
「でもロイドは納得してないみたいだよ?」

ねえ?と振られて、おれは反射的にうなづく。

「納得って…、いこうがいくまいが俺にはどうにも出来ねえ話だろ」
「どうして?」

と尋ねたのはワジ。
ランディはワジの問いには答えずおれに向かって顔を向ける。
ああ、好きな人の顔が見れる。と、安堵した。

「あのなあロイド、さっきも言ったけどな男相手にマジになるなよ。お互いちょっと気持ち良い思い出来て、充分だろ?」
「納得いかないんだ・・・・」
「・・・じゃあどうすれば良い?お前が本気だって言って諦められなくても俺は応えてやれねえしな」
「そうじゃない、何で騙したんだ」
「ああ・・・そこか」

ランディはくすくす笑う。

「だってお前俺のことそういう目で見てたろ?」
「気づいてたのか・・・?」
「すげなくするにゃちっと惜しかったんでね」
「惜しかった?ただそれだけ?」
「ま、平たく言えば」

軽くウィンクをして見せる。
胸に手を当てて、ランディはおれを笑う。

「俺を責めるならいくらでも責めれば良い。お前にはその権利があるさ。
でも、だからって何かが変わるわけじゃない。俺はお前に対して体以上の関係は持たない」

ランディとの間にある齟齬は恋愛感情の有無だ。
それは幾重にも絡み合って解きようが無いようにも見えるし、平行線でいつまでも交わらないようにも感じる。
復讐しようとか、ランディが嫌いだとか言えないおれは、もうランディの言に従うしかないのだろうか。
それでも良いのかもしれない。好きな人に抱いてもらえるなら、それだけで。
ランディが俺をそういう目でしか見ていなくても、おれが好きでいればそれで良い。

「・・・良いよ、それでも」

へえ、とランディは意外そうな顔をした。
おれが納得するとは思っていなかったらしい。
おれだって完全に納得したわけじゃない。けれど、離れることも出来ないのなら選択肢は一つしかない。

「そうかい。ま、俺としてはありがたいけどな。折角の"遊び相手"が逃げちゃつまらねえし」

そう言ってランディは早々に部屋を出て行こうとする。

「・・・話はまとまったみたいだね」

黙って聞いていたワジが声を発する。
ワジはランディを睨む。

「ロイドの事は本当にそれで良いの?」
「良いって、何が?」
「例えば僕がロイドと付き合ったりとか」

え、とおれが言葉にする前にランディが早口でまくし立て始める。

「かまわねえよ、好きにしろ。他の男とヤッたからって減るもんでもねえし。あでも病気だけは勘弁」

じゃあな、と言ってランディは部屋を出て行く。
後にはおれとワジだけが残されて、部屋にはランディの残り香もない。
ランディの最後の言葉にまた胸が痛む。腹から内容物がせり上がって来るような感触に口を押さえた。まるで物のような扱いだ。
おれは性的な部分で、ランディに人間として見られていない。

「ねえ、あそこまで言われてロイドはそれでも彼と関係を持つの?」

おれはぎゅうっとズボンをにぎりしめる。
良いわけない。

「でも、それ以外に選択肢なんかないだろ」
「なくもないよ…」

ワジはそう言うと、おれの体を抱きしめる。抱きつくと言った方が正しい衝撃によろめいてそのままベッドに沈んだ。
ワジはおれの胸の上に顔を乗せて服の上から体をさする。なにするんだ、とおれが問えば、ワジはらしくもなく切なげに眉を寄せておれを見る。
おれが身を起こそうとするのを体重をかけて押しとどめてくる。
おれは頭の片隅でランディのことばかり考えていて、ワジに抱きしめられていることが夢のようで、だから何の抵抗もしなかった。
抵抗のないおれに、ワジの顔はますます辛そうに歪む。

「僕はロイドをそんな顔にしたりしないよ」

そんな曇った顔になんて。と、ワジは言う。
今自分がどういう顔をしているかなんて考えてもみなかった。
言われてみれば、ずいぶんと頬の筋肉が下がっている気がする。
けれど辛そうなのはワジも同じじゃないのか。

「顔が曇ってるのはワジの方だろ…どうしたんだ」
「こんな時でも人の心配?と言うか鈍感なだけ?」
「何言ってるんだ」
「さっきも言ったよね。僕はロイドのことが好きだって」

あれ、真剣なつもりだったんだけど。
ワジの言葉に何の動揺も出てこない。おれはランディが好きで、だから心なんか揺すぶられることもない。

「僕が、変えてあげる」
「何を」
「彼との事。全部、僕と会うためだったって思うくらいのことはする」
「…出来るの」

出来っこない。

「ロイド、僕を見て」

金色の猫のような瞳がよじ登ってきて、おれを真上から見下ろす。
端正な、女性のような顔。女性…ランディは今頃どこかで女の子と遊びに興じているだろうか。

「僕の事だけ考えて」

ランディなら言わない言葉だ。
彼なら、何と言うだろう。何も言わないかもしれない。好きだ、愛してる以外の睦言なんか聞いたことがない。ああいった類の言葉なんてものは言われた分重みを無くしていく。
それに気づくのは遅すぎたけれど。

「無理だよ…」

ランディのことを考えないなんて出来ない。

「そんな泣きそうな顔、しないでよ」

ワジは困ったように見つめてくる。
それからおれの上着のチャックに手をかけた。
するする降りて行くそれを見ながら、これから行われる行為を悟った。
ワジもおれの体を求めるのか。何が良いんだ。おれの。
体だけ求められることになら慣れてしまったかもしれない。
あの一瞬の快楽は、確かにいつまででも貪っていたくなる。

「ワジも、おれのこと簡単に体を明け渡すやつだって思ってるの」
「まさか」
「じゃあ何で服脱がすんだよ」
「僕はロイドのことが好きだよ。だから欲しい。心も体もってやつ」
「だったら、おれの了解無しに何でするんだ?」

ワジは金色の眼を眇めて、脱がそうとしていた手を止める。

「服を脱いだからってする事は一つじゃない」

それを教えてあげる。

ワジの声色はひどく優しい。らしくなく熱が篭っていて、疑心暗鬼になっているおれの心をわずかにだけれど溶かした。

「今ロイドはね、ここに火傷してるんだよ。それも随分重症な」

ここ、と言って胸に手を当てる。
火傷と言ったそこをまるで慰撫するように優しい手付きが撫でた。
仮初めの優しさでも良い、偽りの愛撫で良い。その手が欲しかった。
もう頑張るなと言って欲しい。
おれは自分でもわけが分からないまま目の前がぼやけ始めるのを感じる。

「う…、ふ…ぅ」

目の端から下へ、涙があふれて行く。
それに合わせてワジが抱きしめてくる感触は強くなる。

「ロイド…」

ワジの声が耳元を優しく打つ。
決してランディを忘れられるわけじゃない。
でも、今はこの優しい手に縋っても良いだろうか。
こんな中途半端な気持ちでワジに悪い、と思ったけれど、もう自分でもどうにもしようがなかった。
縋りつくものがなければ不安で、ただひたすらに押し潰されてしまう。
こんなに自分は不安定だったろうか。
ワジの背中に腕を回す。その背中は華奢で、いつも抱きしめていたあの虎のように獰猛で分厚い筋肉とは違う、しなやかな猫のようだった。
こうして比較してしまう事さえいけないと分かっているのに。

「う、く…ワジ…、」
「なに…?」
「…ふ、ぅ、忘れ、させて、くれる…?」
「君が望むなら、手伝ってあげる」

涙で掠れる声をちゃんと拾ってワジはおれの涙を吸い上げる。

「はぁ…」

ずっと鼻をすすり上げる。

「ランディ、と、ワジを、比較してる、よ、おれ」
「…まあそう簡単にシフトチェンジできるなら、恋愛で悩むやつなんていないよね。
それに、ロイドは僕が思ってるより、…繊細だから」

髪を一房すくい上げてワジは口付ける。
涙が止まらない。いつになれば止まるのだろう。

「ロイド、脱がして良い?」

おれは無言でうなづく。もう抱かれても良い。むしろその方が良い、とさえ思える。
おれは自分でも卑しいくらい誘うように身を寄せた。

「言っておくけど、抱かないからね」

察したのか、ワジは先ほど自分が言ったことを撤回するつもりはないらしくおれの上着を脱がしながらそう言う。
なんで、とおれが問う前に、ワジは強い眼差しを見せた。
それに言葉を失うとワジはくすくす笑っていつものような顔をする。

「まず第一段階から、だよ。ロイドは何個も飛ばして最後に行っちゃったようなものだから」

ワジはズボン越しにおれの下腹部に触れる。

「あ・・・・」

もう勃ちあがりかけているなんて。恥ずかしくなって目をそらすが、ワジは何でもないことのようにおれのそれを軽く扱く。
おれが軽く呻くとワジは少し複雑そうな顔をする。
その表情は、まるでおれの体が感じやすい事を安易に喜べないようで。

「抱かれることに慣れちゃってるんだね・・・」
「ふ・・・、く、そう、かな」
「彼に慣らされたのかと思うと・・・少し、複雑、かな」
「たぶん、もともとだよ・・・ランディは最初からおれの体質に喜んでたし」
「そうなの・・・?まあ、彼の話はやめておこうか」

もっともだった。
今は、忘れたい。彼のことも、自分の想いも。
ワジに先を促すとするすると服を脱がし始め、なまめかしい手付きでおれの体のいたるところを触る。
インナーの下に入り込んだ手は胸の突起を掠め、そうかと思うとへその辺りを撫でる。
リズミカルに繰り返されるもろもろの愛撫がもどかしさに満ちていて、おれは体をよじった。
流れ出てくる涙は、いつの間にか情欲から来るものに変化していた。

「ワジ・・・あんまり、そういうのは・・・」
「ふふ、嫌い?こういうの」
「嫌いって言うか・・・」
「性急なのは損だよ」

笑ってワジはおれのインナーも脱がすと、伸ばしたわきの下をべろっと舐める。
くすぐったさと妙な感覚に身を震わせると、ワジは気を良くしたのかさらに舐め続ける。
ぺちゃぺちゃと唾液のぬめる音が響き渡る。こんなところは攻められた事がないだけに、おれはその言いようのない感覚をどう処理しようかと困惑した。

「ワジ、・・・こういう事はしないんじゃなかったのか・・・?」
「服を脱いだからってする事は一つじゃないって言ったでしょう?」
「でも、これじゃあ、」
「感じる?」
「・・・うん・・・」
「良いよ、好きなように感じて?」

ワジはそう言うとおれのズボンのベルトに手を伸ばした。

「あ・・・、」

かちゃかちゃベルトを外す音が聞こえ、するするとそれは下がっていく。下着にかかった手を一瞬止めようか逡巡している間にあっさり取り払われてしまった。
おれはいつものペンダント以外何も身につけていない状態になる。羞恥心は不思議と湧いてこなかった。ワジも自分の服を脱ぎ始めたからかもしれない。
ランディはそう言えばズボンを脱ぐだけの方が多かったから体を見る機会なんてあまり無かった。
ワジは服を全部脱ぎ捨てるとおれの横に寝転がってきた。その体躯は思っていたより筋肉が張り付いていて、肩や胸板などは華奢な印象もあるが、あの身体能力を見せるだけのことはある。
体格的にはおれとそう変わらないかな、などと思った。
横に寝そべっていたワジがおれの頬に指を伸ばす。涙の筋を拭きながらそっと顔を近づけてきて、触れるだけの口付けをする。それを頬に額に首筋に、労わるように優しく繰り返す。やがて唇に戻ってくると今度は息を吸い込むように深く口付けてきたが、舌は入ってこない。ランディはキスの時は大抵舌をねっとり絡ませてきていたからこういうのは初めてだった。
そもそもランディとキスをした回数なんて数える程度だったけれど。
ワジはぼんやりそんなことを考えるおれの乳首をきゅっとつねった。軽く鳴くとワジはおれの顔をじっと見る。

「また、考えてる?」

ほのかな嫉妬とも取れるような口調で言う。
おれはその様子が何か可愛くて、笑ってしまった。

「はは…、うん、考えてた…」

謝ろうかと思ったがそれも違う気がして、おれが胸のうちを素直にさらけ出すとワジは笑いながらまた目元にキスをした。
それは素直に話してくれてありがとうと言うことだったかもしれない。
簡単にシフトチェンジできたら恋愛で悩む奴なんかいないとワジは言ったのだ。それなら、自分に無理をさせないでいた方がワジにとっても良いのじゃないかと思った。
ワジを前にすると、不思議とそのままの自分でいて良いような空気が流れる。ランディの前では背伸びをしていた分それはホッとする。

「彼のことをすごく想ってるんだね」
「・・・うん。気持ちはランディのところにいるまま、かな」
「でも僕といるの、嫌じゃないでしょう」

ワジは何故か自信あり気にそう言った。間違っては無いのでうなづいた。

「ロイドの空気がね、さっきよりずっと安定してる気がする」
「そう?」
「気づいてない?もう泣いてないんだよ」

気づかなかった。いつの間に止まっていたんだろう。
ワジは嬉しそうに目を瞑っておれを引き寄せる。抱き寄せられた体には甘い香りがほのかに香る。
上質な果実酒の香りだったかもしれない。トリニティの香りだ。

「ねえ、ロイド、君は忘れたいと思ってるかもしれないけど忘れるなんてしなくて良いんだよ。
人間ていつかは思い出しても笑えるように出来るんだから・・・僕はその手伝いが出来ると思う」

甘い囁きだった。おれはランディから離れることなんか絶対出来ないししないだろう、だからワジにいくら好きと囁かれても傾かないし、ましてそんな状態で付き合うなんてワジに悪いと思っていたけれど、ワジはそれでも良いのだと言う。
ワジはランディとは違う意味で心に潜り込んでくる。
心の硬くこっていた部分を優しくほぐされていく。

「おれ、自分の気持ちが、分からないんだ・・・」
「どういうこと?」

ワジはおれの髪を撫でる。

「ランディのことは忘れられないのに、ワジを欲しがってる」

上手く伝わったか分からないが、ワジはそうっと口付けてきた。おれを求めるように。

「ふふ、教えてあげようか」

ワジの含み笑いにおれは疑問符を並べる。

「ロイドはね、欲を表に出そうとしてないんだよ」

またおれが疑問を浮かべると、ワジは嬉しそうにおれの背中を撫で回す。
肩甲骨の溝をなぞられてぞわぞわとしたものが背筋を這い登る。つめ先で掠められる動きに反応して口からはかすかに声が漏れた。

「忘れられない彼がいて、甘やかして優しくしてくれる僕がいて、その両方を欲しがってる」
「そんなこと・・・」
「責めてるわけじゃないよ?人間なんてそんなものだから」
「でも、おれは選ばなきゃいけないんだろう?」
「欲を張れば?僕も彼も欲しいってそう言えば良い」
「ワジはそれで良いのか・・・?おれがランディを想っていても気にならないのか?」
「まったく、と言ったら嘘になるけど、まあ、僕はロイドが自由でいてくれる方が良い」
「自由・・・」
「そう、何でも人間てある枠組みや倫理観やこだわりに支配されるけど、そういうものに縛られない心の自由って言うの?そんな中で生活できたら、例えば辛いことでも楽しいんじゃないかな」

ワジの言わんとすることは何となく分からないわけじゃないが少し難しい。
ランディを好きでいながら、ワジも求める。許されないだろうと理性は訴えるが、ワジの囁きに負けそうになる。心がこんなに弱っている時にそれは反則だろうと思った。

「求めて良いのかな・・・」
「良いんだよ。僕はロイドの心が安定するなら何だって良い」
「ワジはどうしてそこまでおれに、その、尽くそうとするんだ?」
「言ったでしょう?好きだって」
「好きだったら、独占したいんじゃないのか?」

おれは少なくとも同時に何人ともと付き合う恋人なんて考えられない。
ワジは苦笑して、おれの頭を撫でた。

「まあね」

短く本音を漏らす姿に胸が痛んだ。

「でもさ・・・、ロイドが消化不良のまま僕と付き合っても楽しめないから」
「ランディとの事が片付くまで待つつもり?」
「予言してあげようか。必ずロイドは僕のところに来るよ」
「そう、かな」

そう出来たら、良いな、と思う。自分を想ってくれる人の方が良いに決まっている。
けれど人の心は理屈ではない。
そうして無限にループして行く感情の中で、おれは一つ決めた。

「ワジ、図々しいお願い、しても良いかな」
「ロイドのお願いなら、何でも」
「───・・・抱いてくれないか」
「抱いてるけど?」

冗談めかして言う。

「ワジは嫌?」
「そうだね・・・、でもロイドがしたいなら、する」
「・・・ありがとう」

その言葉が最後だった。
ワジの手は明確に、意思を持って動き出す。
抱いて欲しいといったのは、ランディを忘れたいからじゃなかった。ワジを好きになれる気がしたからだ。
体の繋がりは恐ろしい。抱かれるほど心の距離は明確に近づき、そして壊れて行く。ワジとはどうなのだろう。壊れることの無い体の繋がりはあるのだろうか。それも知りたかった。

ワジの指はおれの背中をなぞる。背筋を中指でなぞり、首筋に口付けを落とし、体を密着させてくる。
おれはワジの首や背中に腕を回した。しなやかな筋肉のついた体は官能的に美しい稜線を描いている。背中にわずか傷跡を感じた。彼もランディと同じ、傷を持つ人間なのだろうか。ワジの過去は良く分からない。話してはもらえないだろうから尋ねる気にはならないけれど。
背中を撫で回す手は段々下に下がり腰のラインをなぞりながら茂みの中にたどり着いて屹立していたおれのものをまさぐる。ワジは頭をかがめて胸に唇を寄せていた。
優しくねぶる舌の感触に身を震わせ、下肢を愛撫する指の動きに身をくねらせる。ワジの動きの一つ一つが丁寧で壊れ物を扱うようにそうっとしていて、おれは自分でも知らないうちにまた泣き出していた。

「どうして泣いてるの?」

ワジは問う間も熱を扱き続ける。おれは口からだらしなくよだれを垂らし、ワジの頭を抱えながら身をくねらせ喘ぐしか出来なかった。
扱かれる熱から段々とぬめりを帯びた体液があふれ出て、粘りがワジの手を濡らした。息が上がる。吐精が近い気がする。

「ね、何で泣いてるの?嫌?」

ワジは労わるように上目遣いにおれを見た。
嫌じゃないんだ。でも自分でも処理しきれない感情があふれ出してきて何と言葉にすれば良いのか分からない。

「言葉にならないんだ…」

また涙が目の端に伝って枕を濡らす。
おれはワジの頭をいっそう強く抱きしめた。苦しいよ、と声が聞こえたので腕を緩めると彼は猫のようにゆっくり伸び上がっておれと視線の位置を合わせる。
ワジはおれの腰に腕を絡め、深く深く口付ける。先ほどは入ってこなかった舌がぬるりと進入して、舌を絡め取る。無い言葉の在り処を探るように、それは歯列をなぞり上顎をたどり、また舌の絡み合いに戻ってくる。
唇の間で響く粘る水音がやけに耳につく。ざらついた舌の感触が腰の奥からぐっと熱を呼び起こして耳からも口からも侵されていく。おれは堪らずにワジの首に腕を回してすがりついた。
ワジも熱っぽくおれの体を手の平で背中や胸を大胆に撫で回した。
ワジのはぁ、という呼吸が聞こえる。湿った声は快楽を求める声に違いなかった。

「ロイドのその言葉にならない言葉、僕が引き出してあげる」

ワジはおれの出ない言葉の答えを知っているのだろうか。横向きに向かい合っていた体勢からおれは仰向けにされる。同時にワジが上に覆いかぶさってきて互いの状態をよく確認できた。
ワジのものに目を向けるとはっきりと勃ちあがっていてそれに少しホッとする。

「僕のこれ、勃ってて良かったとか思ったでしょ」

おれは苦笑してうなづく。
ふふ、と笑ってワジはゆっくりおれの首筋に吸い付き跡を残しながら喋る。

「ロイドのあんな可愛い姿見て何もならないわけないじゃない?」

そのまま胸に唇を滑らせて筋肉の筋や骨の形を確かめるように舐めては吸いついてを繰り返す。
いつの間にか胸はワジに付けられた跡でいっぱいになっていた。跡を残すのは動物のオスがマーキングするような、独占欲の証なのじゃないだろうか。乳首に這う舌を眺めながらぼんやりそんな風に思う。
ワジは、おれが思っているよりずっとおれを求めているのかもしれない。自惚れだろうか。
おれの髪に指を差し込んでかき回しながら、愛撫は続く。胸から腹にかけてをくまなく舌でなぞり、その間片手は熱を扱く。

「・・・・っ、ワジ・・・」

限界を感じて呻くと、ワジの舌が下腹部に移った。ねとりとまとわりつく舌の感触に身震いする。先端を甘く噛まれ、そのまま熱全体を口に含まれる。自分でもびくびくと脈打つのが分かるくらい感じて、ワジの髪を掴んだ。力無く髪を握る手をワジは一度撫でてくれた。

「イく・・・っ、あっ、ん・・・っ」

ぐっと腰をワジの口に押し付け、押し殺した声で喘ぎながらおれはワジの口内に吐精する。どろりと溢れ出たものをワジは全て飲み込み、顔を上げて舌なめずりする。

「ご馳走様」

くすくす笑う。そうして、おれの内股の付け根のあたりにまた跡を残した。

「際どいところに付けるんだな・・・」
「下まで触りましたって事、残しておいたらロイドが一人でする時も僕のこと思い出すかなって」

ワジはそう言って今度はおれの尻を持ち上げる。膝が胸に付くくらい持ち上げられたところで、ワジは舌を伸ばす。

「ワ、ワジ・・・、」

抗議の声のつもりではなく羞恥のためだった。ランディとする時はいつもローションを使っていたし、ランディがそこを舐めるなんて事は無かったから余計だ。しかも自分の姿がしっかりと目視できる位置で蕾に触れられて胸がぎゅうっと押し潰されそうな快感がくる。ぐにっと押し込まれてくる舌の感触はぬるく柔らかく少しざらついていて官能を呼び起こすには十分だった。
何度も舌が出入りし、その隙間から指が入り込んでくる。ぢゅ、と水音が段々と聞こえ始める。流れ出る唾液が尻の割れ目から背中へと次々伝っていく。
入り込んできた指の一本がくるくると中をかき回す。細く華奢な指の感触。それが内奥の一点を突く。

「あっ・・・あぅっ・・・!」

さっき出したばかりの熱はまた膨らみ始め、新たな快楽を待ちわびる。蕾には二本目がきつそうに入り込んできて、先ほど突かれた場所と同じ箇所を突付かれ、何度も体を痙攣させる。口からこぼれてくる唾液を舐め取るが追いつかない。
段々と後ろにばかり意識が集中していき、唾液もこぼれてくる涙もどうでも良くなる。ワジの指が出入りするのを見つめ、上がる息の中おれはむせび泣きながら懇願していた。

「ほしい・・・よ、ぉ」

涙がまたぼろぼろ零れた。

「ロイド・・・」

ワジは中から指を引き抜いておれを楽な体勢に戻す。
おれの上に重なって深く口付けて唇を離した。右の手に指を絡めて握られたので、それを握り返すとワジは嬉しそうに目を細める。

「僕の名前、呼んで?」
「ワジ・・・・・・」
「もっと」
「ワジ、」
「ロイド・・・好きだよ」

心臓が跳ねる。おれは、言葉を失う。言ってしまったら良いのだろうか。
逡巡していたつもりが、言葉は心より先に飛び出した。

「すき・・・」
「僕も、好き」

何度もその言葉の応酬は続く。自分が分からない。記憶の中のランディの姿が霞む。
金色の目があの碧い瞳と重なり、二重になって、段々と消えうせて行く。
ワジの目の色だけがおれの瞳に残る。
それが何を意味しているのか、理性では分からない。感情はとっくに理解しているのに。
体で示すようにおれはワジの肩を引き寄せてワジの熱に触れる。先端からは先走りが溢れてぬめっていた。

「っ・・・ロイド・・・」

ワジは体を起こして、あぐらをかく。合わせて起き上がったおれを向かい合わせに抱き寄せて膝立ちにさせた。つうっと指が蕾に伸びて人差し指と中指が入り口が開く。
意図を察して腰を落とすと、ワジの熱の先端に蕾が当たる。何度か空回る挿入を繰り返しておれの蕾は貪欲にワジを食らった。

「ん、ふ・・・あああ・・・っ!」

おれは目を瞑り甲高く嬌声を上げ、ワジの体にしがみつく。内部を圧迫する熱がビクビクと動いている。
熱を受け止めた衝撃が和らいで、目を開けると、ワジは苦しそうに眉をひそめていた。

「ワジ、痛い・・・?」
「違う、よ」

声は明らかに苦しそうなのに、ワジは否定して、我慢できないようにすぐ腰を揺すぶり始めた。

「あっ!まだ・・・んっ・・・!」

内部が熱の感触に慣れるまで待って欲しいと思ったけれど、ワジの余裕の無い顔を見ておれはそんなことどうでも良くなった。ワジを食らっている愉悦が駆け巡る。
抜けていく感触に体が熱を帯びて、快楽が渦巻き、入ってくる感触に総身を戦慄かせる。
咽喉を反らすとそこにワジが軽く歯を立て噛み付いた。噛み千切られる痛みが快感の中にない交ぜになって体中を駆け巡る。体が全て性感帯になったような感覚を覚えるほど、何もかもが感じる。
汗が額や胸元から溢れ落ち、密着したワジの汗と混ざって互いの肌をぬめらせる。
意識が快楽だけにさらわれていきそうな中、ワジは何度も耳元でおれの名前を呼び、それが唯一おれをワジのところに繋ぎ止める。
嬉しかった。

「ワジ・・・あ、っ、気持ち、いい?」
「良いよ、すごく。一度抱いたら、忘れられない、くらい」

ワジは少し息を切らして、抜き差しを繰り返す。おれも無意識に自分から腰を振っていた。肉の弾む音が段々と早くなっていく。

「ああっ、もう、だめ、だめぇっ、出ちゃ・・・ぅ」
「ロイド・・・っ、僕も・・・」

ワジはそう言って中から熱を引き抜こうとする。

「まっ・・・何で?」
「何でって・・・中で、出したら、ロイドが、大変でしょ・・・」
「いい、いいから・・・中で、出して・・・っ」

おれは抜けかかっていたそれに体重をかけてまた飲み込む。

「うぁ・・・っ、んっ、ふっ・・・あ」

ワジは少し戸惑った顔で腰を揺らしだす。互いに頬がほんのり赤くなって息が弾んだ。
再び繰り返される抜き差しに快楽が極まる。おれの目は見開いて宙を仰ぎ、指がすがりつく物を探してワジの背中に爪を立てる。痛みをこらえるような声とおれを呼ぶ声が交互に聞こえ、耳を打つ。

「ロイド・・・!」

ワジが一際強くおれを抱きしめ、内奥の一点を深く刺して、止めを打つ。
目の前に火の花が散る。閃光色に染まる視界、内部に放たれた熱、吐精する自分自身。何もかもが快楽の前に融解し消えて行く。

「・・・・っ───!」

声も出ない激しい絶頂に体だけが痙攣を起こし、胸が熱くなる。もう涙腺が崩壊したように涙が止まらなくなっていた。
肉体のみならず精神が満たされていく感覚は今までに覚えが無い。ランディとしていた時と、一体何が違うんだろうか。
おれは余韻でひくつく体をワジの体をに預けた。

「・・・、ロイド・・・」

ワジは愛しげな手つきでおれを抱きしめ、腕の中にしっかりと閉じ込める。
優しい、腕だった。
おれは気づいていなかったが、もうこの時ランディのことはすっかり頭から抜け落ちていた。
ただおれを抱くワジの体温だけが真実おれを満たした。求めていたものを与えられた気がした。

「好きだよ」

ワジの囁きは、甘く耳朶に残った。


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