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トントン、と小気味良い音がする。炊事場の朝は早いが、それにしてもまだ朔や譲は起きてくる頃合いではない。
自分もあまりに早く目が覚めてしまったから水を飲みに来たのだが。
ひょいと顔を覗かせると、細身の後ろ姿が見える。
音の主はヒノエだった。

「あ、」
「ん?」

おはようと言おうとして、寝起きのぼさぼさな身なりが気になって声が変にこぼれる。間抜けたまま足を踏みいれると、ヒノエは振り向いて少し憮然とした。
この少年は男に対しては条件反射的にこういう顔なので、そうと分かってからは最初ほど気にならないが、やはり一瞬何かしたかと思ってしまう。
ヒノエは一瞥すると、さっきと同じく包丁を動かし始める。
近寄りがたいと思いながら隣の水桶に近付くと、無言でひしゃくが差し出された。

「ありがとう、・・・ヒノエくん早いね、」
「あんたもな。・・・なあ・・・ここ来る前に廁行ったろ」
「え?」

ヒノエは無言で鼻をつまむ仕草をする。
それが何を指しているのか理解して、慌てて着物の裾を捲る。
すると切った果物を皿に盛り付けながら、ヒノエがらしくもなく笑い上げた。

「ばあか、オッサン、真に受けてんなよ」
「や、やだな、からかったの」

笑いを堪えないヒノエを見るのは珍しい。
それでなくてもこういうからかいをしてくるのだから珍しい。
ひとしきり笑ったかと思うと、彼は皿を差し出した。

「食う?」
「え、あ、えと、それなに?」

赤い果肉に濃緑の皮が付いた果物は見るからに不気味だ。
皮の雰囲気としては瓜のようだが、それにしては果肉の様子が違う。やはり果実に近いような気がした。
じっと眺めているとヒノエが焦れて皿を突き出す。

「要るの要らないの」
「え、・・・いただきます、」

疑問系で聞かれたはずが、食べろと言われているように聞こえて皿に手を伸ばす。触れたそれはよく冷えている。そういえば昨日の晩に井戸の近くで何かしていたのを見たが、これを冷やしていたのだ。
改めてしげしげ眺めて戸惑うこちらをよそに、ヒノエは水場の近くに腰を下ろしてさっさと口を付けていた。

「水瓜。毒なんか無いから食ってみなよ」

ヒノエは下唇をそれに付けたまま答え、ず、と水分を啜り上げる。
気は進まないものの興味をそそるには十分の水瓜に恐る恐る口をつけると、軽い歯ざわりの後に甘い水が大量に口を満たす。
この不気味な色の果実がそういう名前なのはすぐに納得がいった。
噛む度にさく、しゃく、と良い音を立てる。何となくその音さえ美味いような気がして珍味を貪っていると途中でガリ、と何かを噛み砕いた。
横目でヒノエの方に目をやると口から黒い粒を吐き出している。どうやら種らしい。
同じように吐き出そうとするが、果肉と交じり合って上手いこと出てこない。面倒になってそのまま飲み込んでしまうと、苦味が口に残って嫌な感じがした。

「これ、種が結構あるね」
「飲んでる?」
「出せなくて、」
「ふうん?」

にやにや笑ってヒノエは下から見上げてくる。
手にしていた水瓜を傍に置くと、顔をぐっと近づけてきた。
その仕草が背を反らした猫の仕草によく似ていて少し可愛いと思う。そう言ったら多分彼が怒るので言えないが。

「あんたあんまり上手くないのかな?」

水分でてらつく唇が綺麗に上がっている。
肩を掴み徐々に距離をつめて、息の湿りを感じるくらい近いところに唇がやってくる。後ろに逃げそうになった頭を、ヒノエの手がぐっと掴んで髪を引っ張った。
唇をなぞった舌の感触に背筋がざわつく。
考えてみれば時折さっき見せたような顔をして人を謀っているから、今も何か考えていたのだろう。
それに気づいたのは少し遅かっただろうが。
舌が早々と入り込んでくる。まだ口内には水瓜の破片も種も残っているのに、ヒノエの誘うような、強請るような舌の感触がしたから反射的にそれに応えてしまう。水瓜の水分だろうか、互いの口の中はよく冷えて潤っている。

あの果実は色の不気味さに対して不思議なほど味が爽やかだ。青臭いが甘く水水しい。
毒気のある見た目が、この少年とよく似ている。

伏せられた長い睫毛を薄目で眺めながらそんな事を考える。
ず、とヒノエが水瓜を食んだ時のように唾液を啜り上げた。
やがて舌に銀糸を伴ってヒノエの唇が離れる。その動作を見つめて我に帰った。
うろたえながら理由を考えてもこの行動の意味は分からない。
ヒノエはいつの間にすくい取ったのか、口の中にあった種を吐き出していた。

「なんだ、上手いじゃん」
「っ・・・、からかわないでよ」
「ねえ」

ヒノエの笑みは悪童じみている。暗にもう一度しようと告げられて、今度はさせまいと首に伸びてきた腕を取った。

「んだよ、」
「駄目だよ、」
「何が駄目?」
「からかい半分でしちゃ駄目」
「・・・あんたは?」
「俺の事じゃなくて」
「あんたが嫌なの?」
「そうじゃなくて」
「じゃ、良いだろ、」

掴まえていた腕をあっさり振り解かれてあっけにとられている間に唇を食われる。
何でこうするのか意図は知れない。
ヒノエが八葉である以外に自分と関わっているからそれのせいか、とも思うが何か益があるようには思えなかった。

右の二の腕を掴んでいた手が離れ、首に絡む。
その仕草は態度と裏腹に妙に冷静さを欠いていて熱っぽい。熱にほだされるように歯列を割り開こうとする舌に舌を絡めてしまう。
ぎゅっと体を寄せられて互いの間の酸素は段々と薄くなっていく。

息遣いが次第に夜の吐息を思わせるものになった頃ようやく舌が離れていった。

 


陽が中天に達する頃になって梶原低の中に昼餉の声がかかる。
居間を覗くと望美と白龍が配膳をしていた。

ほこほこと湯気を上げるご飯、牛のしぐれ煮、吸い物、旬の野菜の揚げ物と、全て入り混じって良い香りがする。
胃を刺激する香りを鼻腔いっぱいに吸い込んで座敷にあがったところで一瞬息を飲んだ。

「あ、望美ちゃん・・・これ、」
「スイカですよ。こっちにもあるんですねー」
「スイカ・・・そっちではそう言うんだ?」

望美の言葉に上ずった調子で応えるが、不穏でしかないものを見つけて冷や汗が出そうだ。
今朝の出来事を克明に浮かび上がらせる赤い果肉に濃緑の皮、水水しい光を浮かべて膳の横に鎮座ましましている。

「望美ぃ、これで最後だと」

背後から気配もなく現れた声に背筋を粟立たせて振り返った。
いつもの憮然とした表情がこちらを見たかと思えば、望美に向かって文句のつけようがない笑顔を作る。

「あ、望美、それこいつの」
「そうなの?はい、」

望美が手にしていたスイカの皿を受け取って、嫌な笑いでこちらを見た。

「こいつ、一人じゃ種が出せないからさ」
「・・・っ」

見れば差し出された水瓜の果肉には黒点が一つも見えなかった。

「丁寧に・・・ありがとう」
「どういたしまして」

盛大な溜め息とともに皿を受け取る。
膳を囲む段になって自分だけいの一番に水瓜を片付けてしまったのは言うまでもない。
































スイカがあっちの世界にあるのか謎ですが。
種が出せない景時さんてのが可愛いなと思って。

キスシーンとスイカを早食いする景時さんがかけていかったで す。

夏に書いてたので季節外れですいません。なんか寒々しいです。(現在10月)

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