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こういう天気の悪い日はあまり気分が良くない。じじくさい話だが。
酒を飲んだくれて長ったらしい講釈を垂れる親父よりもうざったらしい。
おれは一つ伸びをして書きかけの書を放り出した。
指から離れた筆は筆置きに置かれるより先に文机に転がってしまって、鳳の文鎮に墨が付く。それに構いもせずに寝転ぶと、隣の弁慶はそれを丁寧に懐紙で拭き取って筆置きに戻したりしていた。
「嫌になりましたか」
自分から教えてくれと頼んでおいて不真面目な生徒になるのもどうかと思うが、こういうものを書くときってのは、それなりに天気が素晴らしくてやる気の出る時にやった方が綺麗にいくもんだろ。うざったい空気の中で書いたって良くなりやしない。
だから嫌になったんじゃなくて相応の雰囲気の時に書きたいだけだ。
口をへの字に曲げていると弁慶は少し笑った。
なんかむかつく。
「じゃあ、僕も、」
弁慶も倣うように伸びをして横に寝そべった。
こいつはどうも人に合わせているわけではなくても、合わせているように自然と見えてしまう事がある。
それに時々苛々させられるのだが、今日は天気のせいもあってか、むかつく日だったらしい。
勝手にしていれば良いのにと思ってしまった。
もっとも、勝手にすれば良いだろうと言ったら、勝手にしていますよなんて笑って言うに決まっている。
鬱屈とした空気が腹の下辺りでぐつぐつ煮え立っている気がした。
どうしておればっかりこう苛々したり腹立てたり怒ったりしているんだろう。理不尽じゃないか。
いっそ弁慶も同じように苛々していれば、心置きなく大声で喚けるのに。
こんなの子供じみているのなんて分かっている。分かっていて分かりたくない。
弁慶はいつも整然とした顔をしていておよそ怒ったりしない。おれが知らないだけかとも思うが。
───じゃあ、怒ったらどういう顔をするんだろうか。
ふとざわめいた悪戯心と苛立ちがこいつを怒らせてみたくなる。
どうしたら弁慶は怒るだろう。
何て言おうか。
「髪、暑くねえの」
「暑いですよ」
それだけ長ければ暑いだろう。薄黄金の波打ちが背中の下で少し動く。
弁慶は身じろいで背中を向けた。
「見てるだけであっつい・・・うざったい」
「そうですか?」
何となくその時反論を期待していたのに、弁慶はさらりと流す。
じゃあ見なければ良いとか言ってくれたら、もう少し言い返せたのに、何でなんでもない顔するんだ。
苛々する。
多分、たぶん、こいつのせいだ。
「そういえば・・・、この間の・・・・・・・・が、・・・・っ・・・・・・ですよ」
なんか喋ってるのは音にしか聞こえなくて、おれは無造作に文机の引き出しを漁った。
手にこつりと当たった小刀を握って鞘を払う。
弁慶は気配に後ろを振り向く。
目が合った。
「切るんですか?・・・良いですよ」
弁慶はもう一度仰向けに寝転ぶと背中に入っていた髪の束を畳に投げ出して、悠長に目を瞑った。
おれは小刀を構えてにじり寄る。穏やかに伏せられた瞼が小憎らしくなってきた。
なんであんた抵抗しないんだよ。
理不尽だとか思えよ。
嫌だって言えよ。
弁慶の傍に近づいたおれは自分でも良く分からないまま自分の髪を一房握り締めた。
目を開いた弁慶と目が合う。
小刀をあてがった三つ編みの一部が、ぶちりと音を立てた。
「何してるんです、」
一瞬にして視界が上に転がる。
天井は薄暗い。じめじめした空気を煽るようで暑苦しい。
何があったのか分からず、反射的に動こうとすると体は動かない。
目だけを横にやってみると左手にあった小刀が畳の目に器用に食い込んでいた。
こいつに止めさせられたんだと分かると、ほんの僅か聞こえた弁慶の声がやたらと慌てていたと思い出して可笑しかった。
「まったく・・・、さっきから何をそんなに苛々しているんですか」
「べつに・・・、」
掴まれた手首は妙にじりじりとして痛む。
放されたところを良く見ると赤く指の跡が付いていた。
寝転んだまませがむように真上の弁慶に腕を伸ばす。彼は少し躊躇ったような顔で腕を背中に回させた。
「あちぃ・・・」
「当たり前です」
「・・・怒った?」
「怒りますよ」
なんで、と聞こうと思ってやめた。
弁慶が怒ったんなら理由なんか聞かなくてもどうでも良いような気がした。
本当はじめじめしているのも夏の雨も、この押し潰されそうなどんよりした空気も大嫌いなはずなのに、不思議と好きになる。
多分、たぶん、こいつのせいだ。
背中に回した腕の力を一層強くすると、熱の篭った唇が苛々したものを包むように降りてきた。
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ウチの弁慶はヒノエ大好きなのでヒノエが自分を傷つけるのなんて許しません。(おやばか)
ヒノエはそれを無意識に分かった上でやってる。無意識確信犯。
最初タイトルをもやもやにしてたんですけど
なんか同じようなタイトルが何個かあったので10秒くらい考えました。
タイトルを考えるのが一番苦手です。
やまもおちもいみもないものにタイトルつけられないよママン!