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中空から投げ出される感覚はあまりに鮮明だった。
空の青さは海を反射した瑠璃のようで、地に投げ出される恐怖より先に宙へ腕を伸ばす。
指先にかすめた太陽は雲母のように煌めいて、だれかを思い出させた。
「ヒノエ!」
それなりの衝撃より、怒声と温もりが、体に響いた。
地面に尻餅をつく形で、弁慶と自分の体が積み重なる。
しっかりと抱えられた体は今更うるさく脈打っていた。
見上げると弁慶の口が何か叫んでいる。
「・・・聞こえていますか?」
辛うじて聞き取れた言葉をオウム返しにして、じぃっと目を見ていた。
指にかすめた太陽の欠片を思い出して、乱れた髪をかきわける。
目元にペタペタと手を張り付け、そうしてようやく自分が今地に足がついているのだと実感した。
「おれ、どーしたんだ」
にわかに呆れた表情が浮かんで、同じように目元を手の平が覆った。
「あまり心配させないでください。」
「心配?・・・したのか?」
「それはもう」
「あー、・・・、悪ぃ」
先ほどの言い争いや自分の気持ち悪い感情が全て、今の一言の前に消えてしまった気がした。
真摯に言ってくれたであろう言葉より、こんな何でもない言葉が効いたなんて、きっと彼も知らない。
弁慶は目を閉じて溜め息をひとつこぼした。
それを見ながらきゅっと、髪を引いた。
「目、閉じるなよ」
「どうして?」
引かれるまま弁慶は顔を近付ける。
間近に見える黄金色が眩しいような気がして、目をそらす。
そらした先に深い青が見えて、地についたままの体はしかし、また宙に浮かび上がったようで。
雲母のように煌めく陽の光が、手の届くところにあると、錯覚する。
「いつ帰るんだ」
「さあ。・・・しばらくは、君が心配で戻れそうにないですね」
「ふぅん、」
そう、簡単な嘘を言う。
弁慶の手は、幼い子どもにするように、前髪を押し上げ、額を露わにした。
「次帰ってくるのはだいぶ遅くなりそうですから。君が年を一つ取るまでは、いますよ」
「なんだ、嘘じゃないのか」
弁慶は笑った。
答えなかった。
翌朝、彼はまた京に戻った。
唇を噛むだけで、わめかなかったのは進歩だと思う。
何度となく空を見上げ、あの目によく似た色の陽に、うっすらと目をすがめ、何度も悪態をついてやった。
春もまだ肌寒い弥生の頃。凍む体が確かに温んだ。
嘘と真の隙間で信じようとする幼さが見せた幻は、幸福で、有り余る。
裏側に潜んだそういう灯が、どこか憎たらしくて、また何度も口汚く罵っていた。