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ヒノエが神子の髪を弄る。触れる。囁く。

女の顔をして、神子は甘い唇を動かして

その囁きに茶化したような愛らしい仕草で返事をする。



それが、耐えられない程苛立つ。

それほどにヒノエを想っていると言えるわけではない。

ただの独占欲に過ぎないが、自分が所有しているものを

まるで他人に取られたような

あるいは、所有物が勝手に主を変えたような

そんな苛立ち。



実際のところそれがヒノエに対する甘えだと

弁慶は気づいていない。

理不尽な事とは大概の場合

一方のもう一方に対する甘えでしかない。





「ヒノエ、」

「あ?」



神子の傍からようやく離れた頃合を見計らって

後ろから声をかけると、案の定ぶっきらぼうに返事が返る。



「今夜、時間はありますか」

「・・・、・・・ある、けど」



彼は言葉の意味をよく知っている。

一瞬怯えたような顔で、それでも拒否はしない。

目線を僅かにずらして、道を急ぐ他の仲間に置いていかれないように歩を進める。

弁慶はその歩みを遅れさせるように、少し距離を取って後ろを歩いた。

ヒノエが人を置いてけぼりに出来る性格でないと良く知っているから。



「別に、今でも構わないんですよ」



ぐっと腕を引いて、顔を近づける。

焼けた肌や大きな瞳が目の近くに晒されて、否応無しに誘われた。



「君の羞恥なんか、知ったことじゃない」



言うと腰に手を回して体を引き寄せ

恥ずかしげも無く卑猥な言葉を耳元で囁く。

前を歩いている仲間が少しでも振り返れば

口付けてでもいるような顔の距離や、腰を撫でる弁慶の手が見られる。

ヒノエは取られた腕を取り返すように、寄ってくる体を突っぱねた。



「やめろよ・・・ッ」

「どうして?君みたいな子が顔を紅くするなんて、滅多に見られないのに。やめられるわけないでしょう?」

「この変態っ」



とうとう、と言うか、ついにと言うか

罵られてもむしろ嬉しそうに微笑む彼は

罵った体をひょいと持ち上げ

肩に毛皮でも掛けるように抱えてしまう。

肩口でじたばた暴れる彼を尻目に、前の仲間に向かって声を上げた。



「皆さん、」



前を歩いていた仲間の集団が散り散りにこちらを向く。



「ヒノエが少し疲れたんだそうです、後から行きますから」



口々に大丈夫かとか、なんだとかと声が聞こえたが

構いもせずに道の脇を流れる小川までさくさく歩く。

抱えられている最中、ヒノエにはなんだか彼の行動が分かり易くて

ちょっと可笑しくなる。





「なぁ・・・、」

「はい?」

「妬いた?」

「・・・さあ?」



頭がさかさまになっているせいか、頭に血が上って苦しい。

弁慶の背中を少し叩いたり服を引っ張ったりすると

地面に下ろされた。



「妬いたかどうか分かんないの?」

「さあ・・・ね、」

「ふぅん、」

「・・・ただ、今、君が欲しいのは事実ですよ」



甘ったるい声で首筋を撫でて、額をくっ付ける。



「別に、・・・いーけど、さ」



体が欲しいのか、心が欲しいのか、それは知らない。

けれど弁慶と言う男は大層ひねくれているように見えて

存外単純であったりする。



「君の体はなんでこう、厭らしいんでしょうね」

「・・・ちょ、・・・あっ、ぁ」



一物に触れながら、くすくすと笑う。

生理的に羞恥を感じて背筋を粟立てるが、少しそういう彼が嬉しい。



弁慶は、所有していると思っているものが勝手にフラフラ歩き出せば怒るし、言う事を聞いているだけの従順さには魅力を感じなくなって他に目移りする。

要するに適当で気まぐれなのだが、真に受けさえしなければ、彼と言う男は怖いくらいの嫉妬と甘えをこんな風に見せてくれる。



「ねぇ、ヒノエ・・・君は僕が好きですか」

「・・・ん、っ・・・あぁ、好き・・・」



嫉妬と言う感情に気づこうなどとしない彼の、こういう甘えが堪らなくて、だからいちいち弁慶の気を損ねるような事をしてやりたくなる。

神子姫をくどくのもまた楽しいけれど、その心は弁慶の気を損ねる事にある。

可愛らしくて愛らしい姫君に夢中になるのも楽しいけれど、自分にはこういう醜さのある彼が丁度良い。



変態で鬼畜な、彼くらいで、丁度。
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