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楼の最上階は大体決まりきったお大尽が占領するので、片隅の適当な部屋でもって一夜を明かす事が彼にとっては多い。

三山を統括する者が胡散臭い部屋で下賎な遊女と褥を交わすのかなどと言われればそれまでだが、別当がそこらましにいるはずもなく、ましてや遊女屋などとんでもない。

となれば本宮にいるわけだから、ここにいる彼と言うのは世間的には大店の道楽息子程度だ。

だから、この程度が丁度良いのだろう。

「ヒノエちゃん。なぁに、また考え事?」

黒い振り分け髪の女がそれらしい仕草と言い回しで近寄ってきた。

年の頃は25かそこらだが、足先から天辺まで白い細面の好い造りをしている。

ちゃんづけなどしているのも、彼の行き着けと言うのか、野卑な言い方をするなら「筆おろしの相手」だからだ。

「姐さんさ・・・、そろそろ男扱いしてくれても良いんじゃない?」

「あら、姐さんだなんて他人行儀。朱乃(あけの)で良いのよ」

ちゃんづけにうんざりした様子の彼を軽く無視して、年上の女郎はすました顔で自分を指差す。

13でこの店に来て以来、気に入られたのか気に入ったのか、朱乃の上客のヒノエは、いつまでも当時のままでいる彼女にどうも歯が立たない。

ヒノエは顔をそらして欄干に身をもたせ、空を仰ぐ。

どこから薄ら寂しいその様子に朱乃の整えられた爪先が綺麗に唇に添えられた。

「ふふ、ヒノエちゃんの想い人はどこかしら」

「ここにいらっしゃいますとも?」

向き直って目の前の美人を迎えるように両腕を開くが、朱乃は右手を両の手で包むと、そうっと顔に近づけて、頬に押し当てた。

「この手は嘘つきね。本当に好きな人相手に汗ばみもしないなんて、失礼しちゃうわ」

「・・・おれをいじめて楽しいかい?」

朱乃は悪戯な笑みを見せると、ゆっくり頷く。

手を解放してからヒノエの足に頭を下ろして、丁度膝枕をするような体制で寝転んだ。

「そりゃぁね。13かそこらの君は初心で可愛かったけど、今の恋してる顔の方がもっと良いわ。いじめたくなっちゃう。嫉妬よ、」

「ふーん、嬉しいねぇ。朱乃からそんな言葉が、」

「もうっ、まるで息子が他の女に取られたみたいよー」

膝枕の上で口をすぼめて残念そうな表情を見せるが、ヒノエの顔が一瞬ひきつったのは言うまでも無い。

またヒノエが物憂げに空を見上げるので、つまらなそうに体を起こすと彼の肩に顎を乗せた。

「ねぇ、実のところだぁれ?この間の子?」

「・・・教えない。秘密がある方がそそるって教えたのは朱乃だろ」

少しばかりそっけなく言われたが、朱乃は笑い出しそうになるのを堪えて少し寂しい顔を作ってみせる。

以前こちらが言った事を盾にしてかわそうとするなんてまだ可愛らしいものだ。

「ふぅん。・・・じゃあ、いつから?」

「・・・、十年以上前」

少々悲観的な顔をする彼を見て、堪えられるものも堪えきれず、朱乃はとうとう吹き出した。

「なっ、なんだよ!」

「だ、だって・・・、あんまりにも可愛いじゃないの、それ、・・・は、初恋でしょう?」

「・・・・・・・・・・悪い?」

再び盛大に吹き出すと、畳みに転がるようにして笑い出す。

ヒノエは半ば呆れたような恥ずかしいような複雑な顔をして、頭をかく。

「いーんだよ。おれの片想いだからっ」

「あらぁ、別当殿にも手に入らないものがあるんだ」

「あいつを手に入れる方法なんて、牢屋に閉じ込めとくくらしか考え付かないね」

「ふぅん、・・・それは大分重症」

「どういう意味?」

「さぁ~あ?自分で考えた方が楽しいわよ。青いって可愛いわね」

そう言って朱乃がふっくらした赤い唇を押し当ててきたので、それに応える。

頭の片隅で誰か違う人物を思い描いている事を彼女は知っているだろうが、それをさえ可愛い、いじらしい、楽しいなどと言うのだから、適わない。

 

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