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引かれた手の暖かさ。



それだけ。

それだけ、で、息をしていられなくなる。









「あーつもりー」



目の前で手をぱたぱた振る。

覗きこむ猫のような目に焦点を当てると

それがよく見知った顔だと気付く。



「何度呼んでも返事しねーし、生きてるのか分からなくなったぜ」



そんな軽口を叩き、彼はすらりとした足をすっくと伸ばして立ち上がる。



「行こうぜ、」

「・・・どこへ?」

「内緒、着いたら教える」



彼特有の含み笑いにいぶかしむが、さしのべられた手は有無を言わせない。

おずおずと指先を伸ばすと、すかさず引っ張られた。

前につんのめりながら、ずかずか歩く彼の後ろに付いていく。



「敦盛、」

「・・・・なんだ、」

「俺、知ってんだ」



何を、と問いかえす間もなく、彼が振り向く。

らしくない醜悪な目を見せ、口許に牙が覗いた、ような気がした。



「お前、怨霊なんだろ」















体がわなないた。

震えか、寒さか、底冷えするような怖気に、自身を抱き締める。

脂汗のようなものが一滴頬を伝う。



「なに泣いてんの、」



現実に引き戻すようななだらかな声に振り向く。

これが現実で、あれは夢だとそこで気付いた。



「ヒノエ・・・。・・・泣いている、のか。私が、」

「汗じゃないだろ」



手拭いを広げてよこす。

受け取らず呆然としていると

ヒノエが構わずに汗も涙も拭き去った。



「顔洗ったら?」

「・・・すまないが。あとで行く」



言って顔をそむけた。

あんな現実に迫った夢のあとで、どうしてこれが夢の続きにならないと言える。

彼のことだ、自分の正体なぞ知っているに決まっている。

だから、だから彼はなにも聞かないし言わない。

それが怖い。いつか、知っていると、この耳に聞かされる事が。



「行くぞ」

「っ、ヒノエ・・・!」



いらついた声でもって腕を引かれる。

慌ててふりほどこうにも、彼に傷をつけるかもしれない事を考えれば、無闇に力も振るえず、ただ押し黙るしかなかった。







「別におれ、お前を怖がらせるためにこんなことしてるわけじゃないんだけどね」



夢と同じように彼に引きずられながら、ヒノエはそう言う。

上手くいかねーな、と一つ笑った。



「お前が泣いてた理由なんか聞かないからさ、一緒にいるくらい良いだろ」



ぎゅっと、一つ強く手を握られた。

うなづけない。首を振れもしない。



だから握り返した。





「ひとまず嫌われてはいないかな?」



立ち止まり振り返ったその姿に、少し臆病な表情を見る。

夢の彼とは、正反対に。



「・・・そのようなこと、気にするのはお前らしくないな」



気のせいか、穏やかにからかうように溢れた言葉が

不安げな彼の顔を和らげたように思える。



「お前だからだろ」

「・・・え、」

「不安になるさ、」





夢のようなのはむしろ現実だ。

引かれた手をいつまでも離せなくなりそうで怖くて仕様がない。

なのに、温もりに浸った、息も忘れそうなこの心地好さを求めている。



自覚が頬に伝わり、わずかに赤くなるのを感じた。

この幸福感に殊更強く手を握らないよう気を付けながら

彼の後ろを歩いた。







願ってはならないとしても

願いたくなる。



この一瞬に、永遠を。
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