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月が雲間から覗く。

頼りなくおぼろげなその色合いの下

寄る辺なく伸びてくる幼い手を握り締めて

一つ、二つ、言葉を紡ぎだす。



「辛いですか・・・」

「・・・、」

「人を殺めるのは、辛いですか」



重ねて問う声が心を撫でる。

頭を撫でて、背をあやして

涙を流す事も出来ない程、疲れ果てた体を

彼の声が包んでいる。











初めて人を殺めた。



それは不意の事で

殺さなければ殺されていたかもしれない。



山に潜んだ野盗の類に襲われても

日ごろ鍛えられていた体術が自然と現れ

彼らの手にしていた白刃を避ける。

自分の持っていた短刀を取り出し

首を掻き切る。



血や、悲鳴や、様々な断末魔に目を見張った。



息を切らし血溜まりに身を置いて

今更に足が震えた。























「辛い・・・」

「怖い、ですか」



頷く。



「何故?」



返事を待つつもりも答えさせようという期待もせずに

彼はゆっくり抱きとめる腕に力を込めた。

小さな体が震えている。



「あんな・・・簡単に、人が死ぬ・・・、」

「ええ、」

「あんたも知ってんだろ、」

「はい、」

「簡単に殺せる事を知ったら、・・・同じ事を違う誰かにするかもしれない」



例えば目の前にいるこの人物を

必要とあれば躊躇いもなく処分してしまう自分を想像した。



「ヒノエ、」



弁慶の唇に視線を上げると

それがすっと額に付く。



「忘れなさい、・・・その感情は君には要らない」



暗示のように、言葉が頭に降り注ぐ。

途端、急激に視界が暗くなる。

何がしか呪をかけられたらしい事を知って

意識を途切れさせる直前、弁慶の衣を握り締めた。



「君は・・・、別当になる人間です」



崩れる体を抱きかかえてやると神殿に向かう。

握り締められた手を見やりながら

自分の方をこそ辛いのではないかと言われそうな表情で

唇を噛み締めた。





辛くともやらなくてはならない事がある。

人を殺める事もまた同じ。

泣いてすませられなくなるうちに

そんな感情は切り捨ててしまえば良い。



普通の子ならばただ美徳となるだけのその真っ直ぐな性質は

恐らく後の禍根になるだろうと、思えて仕方ない。

非情を、怒りを持たない主に、主は務め得ない。





「人を殺めるのが辛いなら、その辛さを肩代わりしてあげます」



彼の感情を封じたこの罪を持って。
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