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禊は禍を祓い、汚れを落とす。
白い装束は死人が蘇らぬよう、清め、この世の記憶を消す意味を持つ。
白装束を身に纏う度、自身が生まれ変わるように思う。
弁慶が熊野へ帰ってくる。一報が入ったあと、始終心が圧迫された。
滝の水に打たれながら、清浄とした空気に身を浸す。
喜ばずにいられない自分が、どこか憎たらしい。
勝手に帰ってきて、勝手に出ていく。そんな男に感情を奪われるのが悔しい。
「こっちにいたんですか」
旅装束もそのままに、今しがた考えていた相手が、にこりと笑った。
「君が禊するなんて、余程の汚れにでも当たったんでしょうか」
さくさくと湿った岩を登って滝壺に近付いてくる。
見計らって、ざぶ、と音を立て、滝から離れた。
張り付いた白い布は空気に触れると寒々と体温を奪う。
「今回は、何の用だ?」
「君は聡いところが良いけれど、少し可愛くしておく方が年頃らしいですよ」
弁慶はふふ、と喉の奥で笑って、表情を改める。
「君にも今回は言えません」
なぜ、と問おうとして弁慶の視線に圧迫された。
途端柔和な表情に戻る。
「今回は口止めされています。それに、君にはこの熊野でやって貰わなくてはならない事もある」
一通書面を取り出すと、それを手渡す。
次いで今だ水の滴る前髪を一房手に入れ、絞っては、すく。
「君がやることと、僕への口止めです。兄直々の書面ですよ」
言って、紙を指で撫でた。つられるようにそれを開けようとすると、弁慶の手が阻む。
「これは後のお楽しみ。それよりそんな格好でずっといると風邪を引きます。着替えてから来てください」
水で張り付く着物が薄い肩を一層華奢に見せる。
労るように一度だけ撫でると、来たときと同じようにさくさくと戻っていく。
聞こえるように一回舌打ちをすると、彼が振り向いて苦笑した。