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雲海を走るトキの群れ。

さて今日の天気はどうかと空を見上げた瞬間、後ろからの衝撃につんのめる。

真っ赤な髪が見えて、それを撫でると悪戯っぽい笑みが溢れた。


「おはようございます」

「はよ、」


少しばかり舌っ足らずな悪童は上目使いに面を上げた。

熊野三山をいずれ背負う事になるこの少年は、あと二ヶ月で十二になる。

叔父の自分としてはことほぎの言葉ひとつくらい言ってやりたいが、生憎とそんなに居てやれない。


「今日はまた親父と話し合いか」


暗に遊びたいと込めて言ったが、弁慶は眉を下げてうなづいた。

聞き分けよくあろうとする年頃は過ぎてしまったのか、反抗的に眉をつり上げる。


「あっそ、」

「遊びたかったですか?」「別に、」

「じゃあ、明日は?」

「おれだってヒマじゃない」

「そうですか、残念だな。明日が丸一日空いてしまう、」


弁慶の手が前髪をいじった。

子ども相手の僅かな悪戯心は、動揺を誘ったらしい。そっけなく言ったあとに引っ込みがつかないのか、唇を尖らせて、本人も気付かないうちに頬が膨らむ。




「あしたっ、」


沈黙に焦れて少年が口を開くまで、さほどかからなかった。

調節出来なかった声の大きさに恥じながら、そっぽを向いていた顔が向き直る。

「や、薬草取りに行くから、ついてこいよ。あんた詳しいだろ」


上擦った声が可愛らしくて微笑む。

うなづいた後、さっさと身を翻した背中を見送った。

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