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弁慶のそういう時の表情ってのは大体想像のつくあざとさでもって固められている。
自分がそれを好きかどうか聞かれたら、やはり好きと答えるのだろう。
真面目ぶった面の弁慶なんて、ただ不安になるばっかりだからだ。


冬の雲に、にょきにょき伸びた白い息が被さって視界がもわりとした。
隣であんまんをくわえている弁慶はおれ以上にもわもわに巻かれて暖かそうだ。手の中にはもう一個あんまんが入った紙袋。おれも少し食べたい。でも一つはいらない。つまみ食いしたい気分で弁慶の手にあるあと一口くらいの欠片を奪った。

「貰い、」
「一つ残ってるんですよ」

弁慶の目は珍しく子どもっぽい。
最後の一口って最初の一口と同じくらい大事だもんな。分かる分かる。
だから欲しくなるんだ。

ひょうひょうと凍えた風が吹き抜けて、鼻っ面をはたいていく。元々冬は好きじゃないのに、風にまではたかれてると余計に嫌だ。
早く帰りたいおれが足を早めると弁慶の歩みも早まった。そうこうしながら弁慶は袋の中身を食べようかどうしようか悩んでる。食っちまえよ。

「ヒノエ、」
「ん?」
「さっきの一口返して下さい」
「はあ?」

少し先を歩いてたおれは、冗談ばっかりの表情のあいつを想像して振り向いたのに、その顔が真面目だったもんだからおかしくなった。

「もう腹ん中だよ」
「返して下さい」

どうしろって言うんだ。弁慶は本当に時々分からない。
おれは困って頭をかいて、お気に召す言葉を考える。
機嫌が悪い弁慶は少しもおれに触ってくれない。だから機嫌を取らなきゃおれが困る。
相変わらず嘘臭いほど真面目な顔でじっと見られた。

「何で返せる?」
「何でなら返せると思います?」

質問を質問で返すのはずるいって言ってたのは弁慶だ。なのにそう切り返せないおれはやっぱりこいつに甘い気がする。
ちょっと前なら一晩ご奉仕すれば良いとか言ってくれたけど、今は効きそうもない。

「じゃあ、何でもいう事聞く」

今度は弁慶が面食らう。何でもって結構良い響きだ。言われた側に全て主導権があって気分が良くなるもんだろ。
弁慶が一瞬何か考えるようにして、それから腕を組んだ。寒いんだ。
そういえばさっきから立ち止まってこんな下らない事を争っていたから、すっかり全身冷えてしまった。
促すように歩きながら、言った事を繰り返す。

「あんたの言うことを聞くよ。一日だけな。」
「僕の言うことを全部聞くんですか」
「まあ、そんなとこ」
「何でも?」
「何でも」

ふぅん、なんて言ってしたり顔のこいつ程安心するものは無い。
真面目な顔なんて不安になる。
少し笑った弁慶に頬をさすられて、弁慶の唇にばかり目がいく。
何する気だろ。この下半身お化け。そう思いながらやましい事を期待しているのは自分だ。

「じゃあ、さっきの一口返して下さい」
「・・・いーよ」

返せって、何で返せば良いのか知らないけど、返せないとは言えないから仕方ない。
通りはせまっこくてあんまり人も通らないもんだから、弁慶は近づいてきて好きなように唇を舐る。ぞくぞくと背中からうずきが湧いてくる。堪えられなくておれが強請るとあっさり舌を離してしまった。

「返せもしないのに許可するなんて感心しませんね」

意外な返事だった。随分冷たい声で言うから、どうしてか言い返せなくなった。
返せないって分かってんのに吹っ掛けてる弁慶に言われても腹が立ってくる。
おまけにこいつの言いたい事が分からない。それも腹が立つ。
いつだって弁慶は頭の良さそうな装いで、分かり辛い事を分かり易く教えてくれるのに、こんなんじゃあ分からない。

「分かってないですね、僕が何を言いたいか。」

怒ったような口調で、それでも弁慶は冷たくなった手を伸ばして、おれを引っ張る。歩く速度は早くも無いし遅くも無い。なのに、妙に急くような感じだ。
いつもと変わらないようでいて、弁慶は酷く怒っているような気がして怖くなった。
おれの物分りが悪いから、こんな事で怖くならなきゃいけないんだろうか。
触れているのに手がじわりと冷たい汗を滲ませる。いたたまれなくて、自分から手を放そうとしたら弁慶はまた強く握り返す。

なんなんだよ。

弁慶の考えてる事が、分からない。

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