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引きずり上げられた腕の先に悲しげな姿を見た。
呼びかける声を振り払おうと何度も何度も抵抗していたのに、その姿一つに執着が湧いた。
薄暗い牢獄の中、膝を折る少年の姿は紛れも無く自分が知っている弟。
生きていた頃より一層小さく儚く、憂いを帯びて、佇んでいる。
その傍らで、声がする。くぐもったその声の主が、何をか訴える。
弟か、その声にか、どちらともだろうか。
気づくとあの世から引きずり出されていた。
桜の盛りを終えた木の芽時。
息を吐いては吸って、今生きているものと同じ時間の中にいる事を実感する。
『寄せられて』この方、生前と変わらない待遇を受けるが、これは違和感に過ぎる。
目前で催される宴の雅やかさがあまりに空々しい。
離れた所から座してその様子を見ていると、悲しくなった。
栄華はもう張りぼてでしかない事と、夢の中で過ごす彼らの痛ましさに。
ふと揺らいだ人影を感じる。
これさえ実は死者の証。視界に無くても気配が感覚で掴めるのは、この世に再び転び出てからの事だ。
「ここに、おいでか」
「知盛殿、・・・これは座興か」
「・・・やがて来る、源氏の、盛りの、か?」
顔を上げて言った相手の表情を見ると、皮肉げに口元を持ち上げていた。
未葬の彼らには既に終わりが見えている。
「詮無いことを申した」
「いや・・・、」
苦笑して返すと、彼はいつになく普通に笑んでいたような気がした。
座る事を勧めるとどかりと音荒く横に座る。
猪口を渡されて何となしに口をつけた。
「美味いだろう」
「ええ・・・、」
「・・・。酒の美味さを味わえる事の方が大事だろうさ」
「そうですね・・・。では、栄耀栄華と言う酒には」
愚問であるにも関わらず、あえて問う。
それは彼の胸にある引きつった何かをよりつらせるようなものだ。
「元々無いな、」
「まあ・・・、貴方はそうでしたね」
「だろう、俺は元々、興味が無い。戦だけだ。ここに、誇りも無ければ未練も無い」
とんとんと床を指先で突付いて、目の前の宴を顎でしゃくる。
「始まったものはいつか終わる、」
いっそ楽しんでいるような語調に哀れむような心を抱く。
昔の彼という人は、あまりこうではなかったからだ。
それこそ兄の重盛ほどではないにしても、勇将と名高く父清盛の信用も人並みならぬところがあったものだが、生者と死者を交えた一族に成り果てたところから、恐らくは胸に引きつらせるものを抱いたのだろう。
それを抱きながらも、この醜態を冗談のように眺めているのかもしれない。
逆に、そうしなければ、常人ならば狂ってしまう。
ふと、視線が固まった。
「ああ、お前の弟か、」
猪口を持ったまま宴の席を差す。
視線を踊らせると、黒にも近い紫の髪の少年が一筋淡い笛の音を奏でていた。
「お前の弟は、再会してもまったく嬉しそうじゃなかったな」
「怖い顔でもされたのでしょう」
笛の音の澄みが空気を換えたのかもしれない。少しばかり心が浮き上がる。
知盛は彼特有の笑いを零した。
呼びかける声を振り払おうと何度も何度も抵抗していたのに、その姿一つに執着が湧いた。
薄暗い牢獄の中、膝を折る少年の姿は紛れも無く自分が知っている弟。
生きていた頃より一層小さく儚く、憂いを帯びて、佇んでいる。
その傍らで、声がする。くぐもったその声の主が、何をか訴える。
弟か、その声にか、どちらともだろうか。
気づくとあの世から引きずり出されていた。
桜の盛りを終えた木の芽時。
息を吐いては吸って、今生きているものと同じ時間の中にいる事を実感する。
『寄せられて』この方、生前と変わらない待遇を受けるが、これは違和感に過ぎる。
目前で催される宴の雅やかさがあまりに空々しい。
離れた所から座してその様子を見ていると、悲しくなった。
栄華はもう張りぼてでしかない事と、夢の中で過ごす彼らの痛ましさに。
ふと揺らいだ人影を感じる。
これさえ実は死者の証。視界に無くても気配が感覚で掴めるのは、この世に再び転び出てからの事だ。
「ここに、おいでか」
「知盛殿、・・・これは座興か」
「・・・やがて来る、源氏の、盛りの、か?」
顔を上げて言った相手の表情を見ると、皮肉げに口元を持ち上げていた。
未葬の彼らには既に終わりが見えている。
「詮無いことを申した」
「いや・・・、」
苦笑して返すと、彼はいつになく普通に笑んでいたような気がした。
座る事を勧めるとどかりと音荒く横に座る。
猪口を渡されて何となしに口をつけた。
「美味いだろう」
「ええ・・・、」
「・・・。酒の美味さを味わえる事の方が大事だろうさ」
「そうですね・・・。では、栄耀栄華と言う酒には」
愚問であるにも関わらず、あえて問う。
それは彼の胸にある引きつった何かをよりつらせるようなものだ。
「元々無いな、」
「まあ・・・、貴方はそうでしたね」
「だろう、俺は元々、興味が無い。戦だけだ。ここに、誇りも無ければ未練も無い」
とんとんと床を指先で突付いて、目の前の宴を顎でしゃくる。
「始まったものはいつか終わる、」
いっそ楽しんでいるような語調に哀れむような心を抱く。
昔の彼という人は、あまりこうではなかったからだ。
それこそ兄の重盛ほどではないにしても、勇将と名高く父清盛の信用も人並みならぬところがあったものだが、生者と死者を交えた一族に成り果てたところから、恐らくは胸に引きつらせるものを抱いたのだろう。
それを抱きながらも、この醜態を冗談のように眺めているのかもしれない。
逆に、そうしなければ、常人ならば狂ってしまう。
ふと、視線が固まった。
「ああ、お前の弟か、」
猪口を持ったまま宴の席を差す。
視線を踊らせると、黒にも近い紫の髪の少年が一筋淡い笛の音を奏でていた。
「お前の弟は、再会してもまったく嬉しそうじゃなかったな」
「怖い顔でもされたのでしょう」
笛の音の澄みが空気を換えたのかもしれない。少しばかり心が浮き上がる。
知盛は彼特有の笑いを零した。
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