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神楽の篝火はそれは勢いを付けて舞い上がり
轟々と燃える音はこの夜の舞手を祝福しているようだった。

その焔と同じ色の子供が檜扇を指先から垂らすように開ける。
彼の視線は真っ直ぐに床から中空へ向かった。


白々更ける その山の

水面にも似た さやけさや


声変わりを迎えたかどうかと言う爽やかな声。
初々しさと反して流暢に響く歌声が、聴衆を魅了した。

少年は目を横にやる。
しゃらりと鳴る鈴音と共に、視界に一人捉える。
また視線を違う方へ向かわす。また、一人。

(いない・・・)

父や、仲間や、友人の姿、その中に彼の姿は無い。

扇が翻り、袂が優美に振り上がる。

約束がふいにされた事に気づいても、今更舞いは止められない。
咲いた花のような指先を空に絡め、らしくもなく切なさに痛む胸を押し殺す。

(死んじまえ、あの糞坊主・・・)





舞い終わった直後、湧く歓声も気にせず父の元へ駆け寄る。
舞装束に足をもつれせながら、せっせと走ると、父がこちらを振り向いた。

「おぉ、今日の主役のお出ましか」

さすがに普段ひねくれてあまり褒めてもくれない父だが、今日と言う日は嬉しそう笑っていた。
周囲に見せびらかすように自分の前にヒノエを引っ張る。
弁慶がどこに行ったのか、と聞く前に、勢いに圧倒されて口を開けない。

「おう、野郎共!今日は俺の息子に万歳三唱だ!」

鬨の声とでも言わんばかりの歓声が凄まじい。
既に宴席のために用意されていたらしい酒樽から巨大な枡に酒が注がれる。

「親父!」
「あん?」
「弁慶は?」
「んだぁ、急に。あいつなら帰ったぞ?」

ありがとうも恥ずかしいもなく、息子の口から開口一番弁慶は?だった事が正直癪に触らないでも無かったが、しょげたように目線を下げる息子を見て、父は白けた顔で頭を叩くように撫でくり回す。
大体の事情を察して父は苦笑したらしい。鼻で笑う音が聞こえた。

「あいつの嘘っぱちは今更だろうが。今度会ったら小遣いでもせびってやれ」

父の気遣いはその程度だと分かってはいたが、さすがに虫の居所が悪かったのか吼えるように馬鹿野郎と叫ぶ。
大半は約束をふいにした弁慶に、僅かな残りは父に八つ当たりである。
優雅な衣装に身を包んでいるのにも関わらず、鼻息を荒くしたヒノエは傍らで行き場の無ない様子だった酒をひったくる。
父譲りの豪快さで一気に飲み干すと、半ば自棄酒の宴会がなし崩しに始まった。

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