>>[PR]
×
[PR]上記の広告は3ヶ月以上新規記事投稿のないブログに表示されています。新しい記事を書く事で広告が消えます。
意識を手放した少年を弁慶はつぶさに観察する。
両手を顔の端で軽く握ったまま、口を緩く開いて寝ている。赤子のように幼い。
まるで恋人にでもしてやるように髪をすき、あどけない額に口付ける。
目には部屋の少し先が見えない程暗いこと、体には二人分の熱でほのかに暖かいのが分かる。
いつもならその心地好さにまかせて眠るのだが、自分一人眠れないのは、ヒノエの様子が気になったからだ。果たして彼は何を思っていたのか。
舞の一差しを思い出す。
夕映えに照った衣から咲く指先。
淡くくゆる煙のようになよやかで、それは美しかった。
「舞・・・、」
一人ごちて、何か引っ掛かった。
閉じられた記憶の蓋に鍵がさしこまれると、あっさりそれは蘇る。
もう何年も前、彼が祭りの舞手になった事があった。
練習に明け暮れていた彼が、偶然に戻ってきた自分に駆け寄り、細い、今より小さな手を精一杯伸ばして、喜色に頬を染める。
着物の袂を握り締めて、彼はこう言った。
「絶対、見に来い・・・」
練習に着ていた水干のだぶつく袂を翻して、返事をする間もなく彼が走り出したので、その腕を取った。
それから、恐らくは、楽しみにしていると言った。
「・・・小ずるい手でしたね、」
あの時熊野へ戻ったのは当然休むためでは無かった。
祭りに興じている余裕はなく、けれど、まだいとけない甥の舞を楽しみにしないわけがない。
「嘘じゃ、無いんですよ」
そう弁明したら、彼はずるいとか卑怯だとか、子供のように当たり前の正論で責めるのだろう。
「・・・ごめんなさい、」
耳にはきっと届いていない謝罪を述べて、薄く開かれた唇に自分のそれを近付ける。
一瞬ためらって、それからゆっくりと、息の湿りが分かるだけ、ほんのそっとだけ口付けた。
PR