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つう、と一滴、地面に落ちた。軒先に垂れるつららが朝日を浴びてきらきら光る。
隣に立っている弁慶は手をかざして眩しそうに目を細める。吐く息は、白い。

雪のあるところなんてあまり来た事が無いから、それは寒くて身を震わせていると、弁慶も同じように腕組みをした。少し背を丸めてあまりらしくなくかっこ悪い。

「京も冬は寒いんですよ、でもこちらの寒さは違いますね」

ふーん、と応じる自分に弁慶はするりと腕を絡めた。あまり寒いので退けるのも億劫で、されるままになっている。心の表面でそうやって言い訳をして、裏側では気持ち良かったから退けないだけの話だった。
弁慶は頭の袈裟を取って当たり前のように自分とおれの首に巻く。
他人の温もりが残っていると、どうして得をしたような気持ちにさせられるんだろうか。

「案外長いんだな」
「これですか」

指先で摘ままれたそれに頷く。

「あ、」

ふと目の端に人を捉えた。淡紅色(ときいろ)の髪が翻ってこちらへ掛けて来る。
こんな姿を見られた。恥ずかしさで少し顔を外套の中に埋める。弁慶の顔を盗み見ると彼はやはり望美の方に視線を集中させてこっちを見てはいなかった。

「なあ、」
「はい?」

くるりとこちらを向いた彼の目は、いつもより少し金が濃く輝いている。
企んだ時の目に似ていて、なんだか嫌だった。

「どうするよ」
「何が」
「姫君に見られた」
「ついでにこっちに来てますね」

事も無げに言うと、弁慶は一拍置いて離れるどころか体を寄せてくる。
絡ませていた腕が一層強く引かれて、そういえば腕が絡んでいたのかと肌馴染みの良さに妙な気持ちがない交ぜになった。
嬉しくて、恥ずかしくて、少しだけ怒りたい。

「怒っても良いですよ。望美さんの前でこんな事をするなって」

見透かしたような態度に普通に腹が立つ。睨みつけると弁慶はこちらを見ていなくて、睨み損だった。
走りよって来る音が大きくなる。望美の姿が徐々に大きくなると、弁慶の腕の力が強くなっていく。
放せと言えば良いのに、腕は逆の事をした。ぎゅっと負けないくらい強く腕を引く。

「良い・・・、もう今更。見られたし。いきなり放したら逆に変だろ」
「・・・、残念」

弁慶の嘘臭い笑いが零れる。

「ああ・・・、あんた、」

口に出しかけたところで、望美が到着した。新しい雪はさくさく踏まれて綺麗に足跡を残している。
望美は少し息を切らして、白い頬が真っ赤に熟れていた。

「朝食ですよっ。」

それだけかと一瞬思ってしまう。それならわざわざ離れまで走ってくる必要など無いのに。律儀な姫神子だ。
この姿に対する突っ込みが無い事が逆に恥ずかしくて笑顔を振り向けるだけにしていると、その傍らで弁慶が対応する。
誰それが何を作っただの、これをしたから是非食べて下さいだの、ありがたくご相伴にだのと、近所の女房の集まりではあるまいし、嘘臭さに可笑しくなった。

「二人ともあったかそうですね」

唐突に望美がおれを見る。顔を上げようとしたが顔が赤い気がして出来ず、けれど俯いているのもおかしいし、今更腕を放すのはなおさらおかしい。
おかしくない行動を考えていると、何をしてもおかしいような気がして、妙な沈黙が間を渡っていた。
弁慶の肘が少し脇を突付いた。分かってるよ。馬鹿。

「望美さんも入りますか」
「え、あの、それは嬉しいんですけど・・・、ヒノエ君どこか具合でも?」
「ああ、嬉しいなんて光栄ですね。ねえ、ヒノエ」

明らかに態度のおかしいおれを気遣った(申し訳ないがただのお節介な)望美の発言をわざと一つ無視して、弁慶は意地悪く話を振る。
少し風邪を、とかでも言ってくれれば、顔が赤いのもおかしくないじゃないか。自分勝手にそう思っていると、望美のひんやりした手が額に触れた。

「熱、じゃないよね・・・。でも、顔赤いね」

頭がこんがらがるなんて、そうあったものじゃない。小さい頃に無断で鯨を取りに行った時だってこんなに混乱してなかったはずだ。
望美の手が冷たいのも、隣の弁慶の腕が妙にあったかいのも、嬉しいのと恥ずかしいのが混じっているのも、混ざり合ってよく分からない色になる。
おれがますます混乱していくと弁慶の体が隣で小刻みに震えていた。

「望美さん、」
「え、はい」
「大丈夫ですよ、少し風邪を引いたのでみっともないから声を出したくないんです」
「え、あ、そうなんですか。なんだ、良かったあ」
「すぐ行きますから。ありがとうございます」
「はいっ」

望美は疑う様子もなくかけて行く。来た時と同じように薄い桃色の髪は光を反射してひらひらと光った。
それを見つめて、彼女が遠ざかった頃に弁慶を見上げる。随分とにやついてこちらを見ていた。

「馬鹿・・・!」
「馬鹿は君でしょう。なんですか、あの顔は。処女でもあるまいし」
「さらっと下ネタ言ってんじゃねーよ!このオヤジ!大体楽しんでただろ!」
「僕はまだ二十五ですよ。君が今更良いって言ったんじゃないですか」
「おれはまだ十七だオッサン。だからって話振らなくてもやりようがあっただろうが」
「あそこまで清純な反応すると思ってなかったんですよ」

ぐ、とそこで口をつぐんだ。自分がまさか清純だとは言えない。
弁慶の目は嬉しそうに笑っている。その表情のまま顔を近づけてきてこつりと額をつけた。

額は冷たい。絡んだ腕は温かい。

「・・・・ごめんなさい。でも、嬉しかったんですよ」

言って腕をひょい、と持ち上げる。これが嬉しかったと言うように。実際は望美の前でこの姿でいた事がなのか、この状況になのかは分からなかったが。
絡んで馴染んだ腕を少し動かすと間に冷気が入り込んで体温を奪う。身をぶるりと震わせて、すぐ弁慶は体をくっつけた。

「君が腕を放したら、望美さんの前で何かしてやろうと思ってましたけど」
「・・・やっぱな」
「ばれてました?」
「バレバレだった」

額を離して見詰め合っていると、可笑しくなってきて同時に吹き出した。
箍が外れたように思う存分弁慶を罵ってやると、同じように似たような反論が飛んでくる。体は、求めるように離れないのに。
嬉しくて、どうしようもなくなる。

「弁慶、目、瞑れよ」
「何するんです」
「好いこと」

それなりに余裕をかました笑みを見せてやった。
するりと腕を放して、首に絡んでいた袈裟を外す。
そっと顔を近づける。息の湿りを感じるくらい唇を近づけて、ふとやめた。こんなそれらしい行動自分達に似合わない。
頭を思い切り振りかぶった。

「いたっ!」
「ばーか!!ざまぁみろ!」

したたかに額をぶつけてやって、さっさと逃げ出す。これは案外引っ掛け易かった。
額を押さえてうずくまる弁慶を置いて朝食の湯気が立ち上る母屋へ走る。
後ろから雪球が飛んでくるのが見えて、走る速度を上げて逃げた。笑いがこみ上げてくる。
振り返って見た弁慶の表情も、なんだか似たり寄ったりだった。


吐く息は白い。額は冷たい。

腕は、温かかった────

 

 

 

 

 

 


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ちゅうするよりベタなオチかもしれません(笑)

ともすれば不幸になりがちな二人なんですが、日常的にはイチャってると良い。
弁慶はヒノエを所有物扱いしてると良いと思う。僕のものですとか普通に言っちゃえば良いじゃないか。それが幸せってもんだろ(違うだろ)

 

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