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声を出すのも、機を逃してしまうとどうにも間抜けで出来なくて、しょうがなくとぼとぼ少し後ろを歩いて行く。
そういやあんまんは冷えて固くなってるんじゃないのかとか、弁慶は今どこに向かって歩いてるんだろうかとか、色々疑問はあったのに、下らない事ばかりで、話せない。
下らない事しか普段話していなかったんだと、その時に気づいた。

気づくと弁慶は大通りに出てしまって、それでも人目を憚らずに手を握っている。
無言で男二人が手を繋いで歩いているなんて滑稽だ。
いたたまれずに声を上げたが、思っていたより小さくて耳に届かなかったらしい。振り向くどころか頭を動かしもしない様子に、どうにも気が更に萎んでしまう。

「ヒノエ、」

しばらく項垂れたまま歩いていると唐突に立ち止まったらしい弁慶の声が、頭の方から降ってきた。

「お茶飲みませんか、寒いでしょう?」
「う・・・、うん」
「どうしました?」

なんでそんな何でもない顔してるんだ。さっき怒ってたんじゃないのかよ。

「ヒノエ?」

弁慶の目も声も、それこそいつも通りでさっきの怒ってたような顔なんてどっかに行ってて、だから余計に怖くなる。
食べてた物をを奪われたくらいでずっと根に持ってるなんて事するわけない。だから言いたい事は別の事なんだろうとは思うけど、それが分からない。
おれ、何したんだろう。

「ヒノエ・・・?」
「おれ・・・、何かした?」
「・・・、」
「あんた怒ってるだろ?」
「いいえ、」
「嘘吐くなよ。怒ってたじゃねーか」

自分でも情けなくなるくらい声が上ずっているのに、弱い犬みたいに声が張りあがる。弁慶は落ち着き払った佇まいでじっと見ている。
怖いからそれを殺すように何度か酷い事を言ってやると、弁慶は溜め息を零した。

「怒ってますよ、」

言われるまで、随分間が真っ白だったような気がした。本当は本当に短い時間だったはずなのに、焦れて手を放して逃げ出したくなるくらい長く感じられた。
ほらみろ、と顔を上げると、弁慶はまた溜め息を吐く。

「そう言わないと君は納得しないでしょう?」
「え・・・」
「土台君に人の言う事を聞くなんて出来やしないんです」
「な、」
「従順すぎて、自分が出来ない事さえ『はい』と言ってしまう君は、結局最後は僕の期待を裏切るでしょう?」
「・・・・、」
「出来ない事なんか沢山あります。出来ない事は出来ないって言えば良いんです」

なんだよ。それが言いたいのか。だったら最初からそう言えば良いのに。なんだって持って回った事をするんだ。
少し首を捻って考えると、それは答えに繋がる。
どうも弁慶の言う『言う事を聞く』は、おれの認識してるそれとちょっと違った。
おれは相手の言うなりをそれだと思っていたのに、こいつは出来ない事を素直に言えと言う。
ちょっと、実は結構、難しい。

「一口、返せます?」
「・・・無理、」
「だったら?」

この野郎。と心の中で毒づいた。
なんだよ、素直になるって言ったって、結局あんたの言うなりじゃねえか?

「・・・ごめん、なさい」
「良く出来ました」

にっこり笑った弁慶の顔こそよく出来た笑顔で、花丸でも書いてやろうかと思った。



喫茶店に入った後、弁慶は苦笑しながら何度もおれの頭を撫でた。
あの後、なんでだか泣いてしまったおれをあやす。
鼻を啜りながら目の前で湯気を立てているココアを飲んだ。

「すいません、言い過ぎました」

優しくすんな馬鹿。そう思う辺り、おれは全然素直じゃない。
また泣きそうになって、胸の辺りにせり上がってくる空気の塊みたいなものを押し殺す。
呼吸が上手く吸えなくなって、息を深くしながら整えていると、弁慶は笑った。

「大丈夫ですか」
「べんけ・・・」
「はい?」
「ありがと、」

本当は怖かった。あの時間の出来事一つで弁慶がおれから離れるような気がしていて、でもああして言ってくれたのが、まだ見捨てられてない証拠なんだと思うと、落ち込んでも傷ついても嬉しかった。

優しいだけのあんたじゃなくて、良いや。

「ヒノエ、」
「なに、」
「ありがとう」
「ん・・・、」

テーブルから身を乗り出した弁慶の唇がそっと額に触れて離れた。
不意打ちの気持ち良さに顔を赤くして口を尖らせる。
おずおず目を合わせると、あざとい顔をして弁慶はいつものように笑っていた。
嘘臭くて、分かり易い腹黒さで笑っていて、酷く安心した。

そういう分かり辛い優しさのあんただから、多分おれは傍にいられる。
素直じゃないおれには、丁度良いんだ。




















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こういうタチの悪いいじめ方をする人がM的にはたまらんものがあります(笑)
ウチのヒノエは素直じゃないけど真面目で変に繊細っぽいので、結構いつも胃がやられてそうです。
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