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パタパタと周囲の人間が走り回る音の中で、ヒノエだけ空間に取り残されたようにぼーっとソファでテレビを見る。
見ると言うより眺めているような気分だが、景時の入れたコーヒーの味も、周りが忙しいのに自分だけくつろいでいる温度差も心地良い。

この世界の怪異を調べると言っても日々動き回ってばかりでは疲れるだろうと、誰が言い出したのか今日は皆で出掛けると言う。
恐らく言い出したのは望美だろう。彼女の言でなければ通らない。
神子姫の言い分は半ば絶対である。


「余裕だな、」

支度に手間取る女性陣から逃げるように将臣が隣に座る。
自分で入れてきたのか、これから食事が待っているだろうにカップラーメンを啜り始めた。

「みんなして慌てるのも馬鹿っぽいだろ」

そう返すと生返事のような相槌で将臣が返した。横目でそれを見て、視線をテレビに戻す。
チャンネルを変えようとすると、隣でこれが見たいんだと将臣がリモコンを取り返した。

「んぁ、そーいやあいつは?」

行儀悪く物を口に入れたまま将臣が尋ねた人物を察して、ヒノエはソファを立つ。

「弁慶だろ?」
「ああ、」
「見てくるよ。二階かな、」

それに良いも悪いも言わずに、将臣はまたテレビに振り返った。
背中越しにテレビの音が大きくなったのを聞いて、周囲が更にやかましくなっているから上げざるを得なかった事に気づく。
望美はキッチンであれがないだのこれが良いだのと譲に注文する。
景時が、行く場所の地図を見ながら、自分たちのいた世界とどう違うのかと言っている傍に、自分は鎌倉に来るのは初めてなのに、違う世界で見る事になるなんてと敦盛が話しかけていた。

それぞれに違う事をしているせいか、人が寄り集まった街中の縮図が出来上がる。
こういう騒がしさに一人でいるのはあまり好ましくない。
だから、将臣の質問は丁度良いことだった。
騒がしい所から抜ける事はもちろん、あの人物の傍にいたい自分を、言い訳でも無いといられない程認められないからだ。

 


「おーい、いるのかー?」

部屋の扉を叩くが、返事は無い。
気配らしいものはするので、部屋にそのまま入るとテーブルに新聞を広げて彼はくつろいでいた。

「ああ、ヒノエ。もう時間ですか」
「いや。・・・なんか良い記事でもあったのか」
「いえ、特には」

新聞を覗き込むと、これまでに無い、と言う言葉の後に片仮名文字が躍る。
こちらの言葉に慣れてはきたが、このよく分からない記事のところで止まっていたと言う事が、弁慶が本当に暇つぶしをしていた事を示す。

「将臣が気にしてたぜ、」

あれは気にしていたと言うよりただ気になっただけだろうが、一応部屋に上がってきた理由にしてみる。
弁慶も特にそれを気にするでもなく、そうですか、と笑うだけだった。
紙面を捲りながら頬杖をつく。

「皆賑やかにしているところに一人で新聞なんか読んでいては申し訳なくて」
「ふぅん、」

大概、ものは言い様だ。
言葉では自分を下に置いておきながら、その実、騒がしいのが嫌なのだろうと分かる。

「君もそういう口じゃないですか?」

暗に騒がしいところから逃げてきたんだろうと、黒っぽい声が飛んだ。
こちらを振り向いた顔が苦笑していたので一拍置いて素直に認めた。

「まーね、」

ああ騒がしくされちゃあ、と続けようとすると、弁慶がそれを遮る。

「ヒノエ、」
「あん?」
「将臣君にもう少しで下に行きます、と伝えて下さい」

それは出て行け、と言う信号のように思えたが、彼の意地悪だとも取れた。
こうなると静かに争いが始まっているように感じて、少し苛立つ。

「メールすれば?」
「家の中ですよ。将臣君のお使いでこっちに来たんでしょう?」

別にそういうわけじゃない、とは言えない。
ただ、この場にいたいと宣言するのも、彼の傍にいたいと言うようで嫌だ。

「・・・、」
「君は昔から具合が悪くなると口を閉ざしますね」

叱られた子供のような顔をするヒノエを見ながら、少し呆れたような顔で、弁慶は新聞を畳みだす。
部屋の隅に置かれたマガジンラックにそれを差し込んでしまうと、ヒノエの横を通り過ぎてドアノブに手をかけた。

「あ、」

思わず止めるように手を出してしまったが、その後にしまったと思う。
弁慶の顔が少し嫌な風に笑っていたので、目線を外さざるを得ない。
あの顔をされると大概あまり良い目に合わないと学習していた。

「ヒノエ、」
「なに、」

彼は顔を覗き込み、手を首筋に当てる。
少し低い体温に体が跳ねた。
目の色から弁慶がからかっているのはよく分かる。

「どっちが良いですか?」
「どっちって」
「僕が出て行くのと、君が出て行くのは」

それはあからさまな誘いで、受け入れるのに躊躇いを覚える。
言い訳でもしなければこうして二人きりの場所に入る事も出来ないのに、口はその意地の垣根を越えて素直になってしまった。

「どっちも、無し」

ドアノブにかかっていた手をそれ以上動かせないように、きつく、抱きつく。
胸に顔を埋めて呟くように言ってやった。顔なんかまともに見れない。
弁慶は、やはり少し笑って、頭を撫で、背を撫で、首の辺りに腕を柔く絡めてくる。
素直さを愛おしむように、優しい動きだった。


「おーい、支度出来てるかぁ?」

途端ノックされた部屋のドアに二人して体を跳ねさせる。
将臣がいつもの軽い調子で声を響かせているものだから一瞬返事に困っていると、すかさず弁慶が返答する。
すると早くしろよ、などと言葉を残して彼は大人しく階下に向かったようだった。

「・・・驚いた。」
「僕もです、」

ふふ、と笑う声に、今の事で少しとくとく早まる心音に、体を馴染ませながら、一階で喋る皆の声にも耳を傾けた。
ドアを隔てた外の空間が、まるでどこか違う世界のように思う。
目を瞑り、周囲の騒がしさから隔離されている自分たちの贅沢さに優越感を抱いた。


「本当に、そろそろ降りないといけませんね」

ドアの方を見遣る彼を上目に見る。
しかし頭を撫でる弁慶の言葉には、それほどの焦りは見えない。
もう少し、もう少しだけ、この時間を求めるのは、いけないだろうか。
そう問いかけるように腕の力を強めた。
弁慶の声がにわかに弾む。

「君は、いけない子ですね」

指が、髪に絡む。
頬に手が伸びた。

「これでは、しばらく動けそうも無い」

唇の間近に降りてきた言葉は、最後まで紡ぐかそうでないかのうちにお互いの唇に溶ける。
口付けを何度も交し合っているところに、またとんとん、と階段を上ってくるお邪魔虫の足音が聞こえた。
それに耳を傾けながら、ぎりぎりまで、この時間にしがみつくのをやめられない。


ドアを誰かが開けるまで、その瞬間までの、甘い長い短い時間を。















ヒノエ受け阿弥陀さんの第一回に投稿したお話でした。お題は『しがみつく』

しがみつくって子供っぽくて大好きです。
ヒノエが子供っぽいのが好きなのか。あたしは・・・・うわあ。

カッコイイ別当も好きです よ?

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