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君にあげる >>
皆で出かけた先で婚礼の場に居合わせた。
白いひらひらした衣装に白い薄衣を頭に被った女が、同じく白い衣装の男と手を繋いで歩いていた。
その時は周りに皆がいたからおれも気づいてないフリをしていたけれど、景時だけ少し、ほんの少し歩みを緩めてちらりちらりと眺めていた。だからおれも同じようにちらりちらりと眺めた。
生憎の曇天を覆すように湿気でほわりと浮かび上がる白い輪郭。その中で男女の手先に、チカ、と何か小さく光るものが見えた。
後から望美に聞いたら、それは指輪で、互いの左手の薬指にはめて生涯を共にすることを誓うのだと言う。
「───・・・それって要はさ、犬の首輪みたいなもんだよな」
ベッドの中でもぞもぞと動きながら、寝付く位置を探す。景時の腕の中は納まりが良いのに今日はどうもいただけない。
おれを無理に抱き込もうとせずに景時はおれを覗き込んだ。軽く頬をくすぐられて───本当は撫でただけだろうが───おれは身じろいだ。
「互いに縛り付けるためのものってこと?」
「そうそう。好きじゃないな」
「そう?」
「あんたは好きそうだな」
景時はどうだろうと呟いて、少し躊躇うようにおれを抱きこむ。躊躇されながら触れられるのは気持ち悪くて好きじゃなかったのが、こいつを誘うようになってから麻痺してしまった。
手を触れ合わせて景時は右の薬指をおれの左手に擦り合わせる。
「・・・ヒノエ君らしいね、」
「なんだよ、それ」
らしい、と言うのが呆れられているような気がして嫌な気持ちになると、景時は左手の薬指で背筋をなぞった。合わせて背をしならせると気を良くしたのか緩かった動きがそういう意思を持って尾てい骨のあたりを彷徨った。さっき始末したばかりのところに指が容易く入り込んできて思わず息を飲む。
景時の指は節がしっかりしていておれより長い。年が十も違えば当たり前だろうか。それとも体格差のせいだろうか。
「細いね、」
「な、に?・・・っ」
「ここ、」
景時の右手はおれの薬指を撫でてやがて擦る。指の付け根から爪の先まで扱き、爪の間に爪をく、と押し込んでくる。柔らかい部分に痛みが走ったのと同時くらいに下半身に刺激が走ってどちらに集中すれば良いのか分からなくなる。
困惑して思わず景時の手をぎゅうと握り締めた。
「っあ、ぁっ、・・・ゃ」
「このまましてイイ?」
首を振りながらおれは景時にしがみつく。中を掻き回す指の感触にぞくぞくとして快楽を貪ろうとするのが止まらなくなる。どうせもう勃ってるのだからいちいち聞くなと思いながら、腰を揺らした。
景時はおれを仰向けにすると中を指で擦りながら熱を咥える。前も後ろも攻められて普通でないイき方を知っているおれはイきたくて必死に強請った。
でも景時が挿れる気配はない。このままおれだけイかせるつもりだろうか。そういう奴なのは知ってる。
どうせ後始末とか、おれの体の事考えたりとかしてるんだ。本当は挿れたくて仕方ないはずだ。
軽く指を三本咥え込まされて入り口が開ききる。奥の方が物足りなくてひくついてくるけど景時がおれを気遣ってくれているのに強請るのも申し訳ないような気がして我慢する。
けれど頂はまだ見えて来ない。欲しい。
挑発するようにわざとらしく腰をくねらせる。
「か、げ・・・とき」
「ん・・・?」
「ぅぁ・・・も、挿れろよ・・・、」
「良いよ、俺は」
「ああっ」
急に中で指がばらばらと動いた。
「ひっ・・ぁ・───」
さっきあれだけ射精させられたのにこうして弄られると不思議なものでだらだらと先走りが溢れてくる。
イくのを堪えようと必死で腰が動くのを抑えていると、景時が不意に太股の内側に舌を這わす。
「っあ!」
「イって良いんだよ?」
「や、やめ・・・ぁ」
弛緩したところに景時が容赦なく攻めてくる。やめろ、嫌だと繰り返しても景時はそういう時やめない。
絶対こいつは押しが弱くなどない。
誰かのためになると自分が思った事なら自分の我が侭を押し通す奴なんだ。
「あ、ア・・・ひっ・・・ああぁっ!」
おれは体を跳ねさせて景時の髪を引っつかみ、口に腰を押し付けて射精した。
咽喉の鳴る音を空耳みたいに聞く。景時が放心したおれの左手に何かしても体がだるくてどうでも良かった。
「好きじゃないって言ってたけど、はめておいてくれない?」
景時の腕にまた収まる形で後ろからそう囁かれた。飾り気のない銀の環が薬指にはまっていた。
薬指をさっきみたいに扱かれ、爪を親指の腹できゅっと磨かれる。
「ずるくねえ?」
「・・・そうかもしれないね、」
「てゆーかこれいつ買ったんだよ、・・・、おれも・・・何か・・・」
言いよどんだのはおれが景時のために指輪なんぞ物色するのがらしくない気がしたからだ。
けれど景時ばかりがおれを縛ろうとするような我が侭に見えて、おれは嫌になる。
そういう我が侭はこいつらしくないから違和感があったが。
景時はおれを抱く腕の力を少し強くする。
「嬉しいけど。いいよ、俺のは、」
「何でだよ」
「だってさっき、好きじゃないって言ったでしょう?」
「それはっ───」
後ろに振り向き様、景時の目とかち合う。
暗がりの中、月光だけで浮かぶ目の色は妙に鮮やかで、いつにない程綺麗で幽霊じみていた。
押し黙ってしまうと景時はぽんぽん頭を撫で繰る。
「・・・左の薬指ってね、心臓に一番近いんだって」
指をまた扱かれる。
爪をまた磨かれる。
「俺のは要らない・・・指ごと、君にあげる。全部、君にあげる」
景時のそれは怨念の篭ったような想いがあった。
指輪は景時自身だ。おれがそれをしているという事が大事で、自身がおれを手放す事なんかハナから考えていない。
空恐ろしさに全身がぞくりと粟立つ。交わる前の期待感にも似た戦慄だった。
「景時・・・」
「なに?」
「あんた案外・・・怖いのかな」
「さあ・・・どうだろう・・・そうかも、しれないね」
景時はことさら強くおれを抱きしめた。
薬指に押し付けられた景時の心臓は夜光にチカ、と反射する。
「・・・。良いよ、預かってやる」
後ろの気配は軽くうなづく。指輪を胸に当てると心臓にもう一つ鼓動が加わる。
───体を重ねた時と、同じ感覚だった。