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好きが違うなんてことない。

少なくともおれはそう思う。
























ちゅんちゅんと鳥の声がする。
ぼんやり目を開くと、一気に胸の悪さを感じた。
いわゆる二日酔いってやつ。

「うえ・・・きもちわる・・・」

うーんと寝返りを打つと、隣に温もりがあった。
え、と思う間もなく、昨日を思い出す。
幸いなことなのか、記憶は全て残っていた。

「そっか、そうだった・・・」

(昨日はランディがおれを・・・おれのこと)

口付けられた感触やら噛み付かれたことやらが鮮明に思い出されてきた。

「うわ・・・、なんか・・・恥ずかしい」

半身を起こして服を捲り上げると、あっちにもこっちにもランディの残した跡があった。

「お花畑・・・状態」

真っ赤な噛み跡はそれこそ花のようについていた。
まんざら、悪い気がしないのは不思議だ。
おれはランディを知りたいと思った。それは多分、好きだから。自分でも気づかないうちに侵食されていたんだ。
決定打はカエル事件の後、ランディに避けられていると思った時。
このまま離れたくないと思った。近づきたかった。

このきれいな人に。

ちらっとランディを見るとまだ安らかに寝息を立てている。
時間自体もまだ早いらしく、エリィやティオが動き出している気配もない。
こうして見るとランディの寝顔は案外あどけない。
体を少し丸めて寝るのは彼の癖なのだろうか。
身を守る子供のようで意外だった。

(可愛い・・・なんて言ったら、また避けられるかな)

いつもまとめられている髪はくしゃくしゃになって広がっている。
それをすくい上げて引き寄せられるように口付けた。
ふわっと、何か香水のような香りが広がる。顔を離してその香りを思い出す。これは確か・・・

「沈丁花・・・」
「よく知ってるな」
「わっ」
「今起きたからな、言っとくけど」
「あ、ああ」

ランディは俺に合わせて半身を起こした。
上半身に何も身に着けていない。いつもそうなのだろうか。
目立つ裂傷がいくつも体に刻まれていた。
これが彼の過去なのだろう。

「それ、取ってくれねえ」
「あ、煙草?」
「ああ」
「吸うんだ」
「たまにな」

テーブルの上にあった煙草とマッチを渡すと、ランディはたまにしか吸わない割に手馴れた手つきで吸い始めた。
紫煙がほわりと部屋に広がる。
煙草をくわえた唇を見て、心臓がはねた。

「ふぁ~、しかしお前早起きだな、まだ5時半だぜ?」
「まだ寝てたら良いよ、悪いな起こしちゃって」
「いいや、お姫様のキスで目覚めるのも悪くないぜえ?口じゃないのが残念」
「なんだよやっぱり起きてたのか」

それ以前にお姫様ってなんだよ。

「ハハ、・・・なあ、」

ランディは急に真剣な顔をすると、

「お前、覚えてる?」

と言った。
もちろん何を指しているかは分かる。
昨日のほにゃららだろう。

「お、覚えてるよ」
「どこまで?」
「・・・もう限界、明日話すって言ったところまで」
「じゃあ全部か」
「うん」
「・・・忘れねえか?」

なんですと?
おれの昨日の決心は?

「は?え?ちょっと待て、よく話が見えないんだけど」
「だってお前酔っ払ってたろ、俺もまあ油断してたしちょっと酔ってたっつーか」
「じゃあランディは酔った勢いでこんなことしたのか?!」

服を捲り上げて昨日の跡を見せると、ランディはすぐに目をそらした。
困ったような、と言うより迷っている。
ティオが言ったとおりのようだ。
ランディは、何かまだ迷っている。

「何にそんな迷ってるんだ」
「・・・」
「昨日あんな・・・・好きだって、そう、話しただろ」
「俺は一言も好きだとは言ってねえ」
「屁理屈。埒が明かない」

おれは頬杖をついてランディを横目で見やった。
ランディは煙草の煙をくゆらせて、ぼおっと遠くを見ている。
その視線の意味はなに?
おれは昨日言った、ランディが知りたいって。
その答えがキスだったり、体についた跡だったり、好きじゃなきゃ男に欲情する

わけないと言う言葉だったりしたのだろう。
もう昨日であらかた話はついていた、あとはまとめるだけだと思っていた。
なのに、人の心と言うのは理屈じゃないらしい。
一晩で、ランディの中にまた迷いが起こっている。

「ランディはおれが信じられないのか?」

何となくそう思った。
カンでしかないが、それ以外、言葉が見当たらない。

「そうかな、そうかもな・・・」

意外と素直な返事が返ってきた。
良い線を行ったらしい。

「俺の過去は知ってるだろ?キレたりすることとかも」
「もちろん」
「俺の手は薄汚れてる。ずっとそんな感覚を抱いてた。でもお前に会って、お前

と触れ合ってるうちに、自分でも信じられないくらい手がきれいになっていくよ

うな気がした。お前といると、自分が浄化されてるみたいだった。だからもっと

傍にいたいと思うようになって・・・結果が昨日のあれだ、このザマだ」


言うとランディはおれの服の裾を捲り上げて、噛んだ跡を撫でた。


「結局俺は人を傷つけることしか出来ない。お前だって、引いただろ?」

ランディは苦々しい顔で煙草を灰皿に押し付ける。
そしておれに背を向けて寝転んだ。

「そんなことない」

そっと背中に手を伸ばす。
傷跡をそっと辿ると、少しランディが身を震わせた。
痛かった?そんなわけないか。

「おれは、おれの知らないランディが見れて嬉しかった。驚いたりしたけど、でも

ああ、なんだろう、それでも好きだって、おれはランディが好きだって思った」

後ろからぎゅうっと抱きしめる。
肩甲骨の辺りに顔をうずめて、念じる。
好き、好きなんだ。

「お前ってさ、」
「うん」
「人が良すぎるぜ」
「知ってる」
「悪いオオカミに食べられちまう」
「良いんだ。おれはそのオオカミが本当に優しい事を知ってるから」
「食べられてやっぱり嫌だったって後悔するかも、」
「ランディ!」
「なんだよ」
「おれに、キスして」

するとランディはためらいがちにこちらを向いた。
ランディはやっぱり優しいじゃないか。
なんだかんだでおれの言ったことをしてくれる。

そうだろ?

「あ・・・」
「目ぐらい閉じろ」
「ん」

思いがけず深い口付けだった。
歯を舐めて、上あごをくすぐられて、唾液が飲み込みきれずにだらだら垂れてくる。
体がとろとろに溶けていく。

「んは・・・ぁ」
「ロイド・・・」

そう、その声がね、おれの頭をおかしくするんだ。
昨日の夜もそうだった。
頭がしびれて、体の一点に熱が集中する。

「昨日の続き・・・」
「・・・しねえぞ」
「なんで!」

言うと、ランディはおれの寝巻きを下着ごと引き下げて、熱を握りこんだ。
有無を言わせない動作に戸惑う。
何でいつもランディは唐突なんだろう。
おれには訳が分からない。

「あぅ・・・っ」

そのまま、ランディは俺のものを口に含んだ。

「ひっ・・・」

唾液が絡み合ってぬちぬちといやらしい音が響く。
どこかで経験でもあるのかって言うくらいランディの舌使いは巧みで、あっけなくイきそうになる。
だがランディはおれを寸止めして、おれの口に自分の指をしゃぶらせた。

「んん・・・?」

熱を吐き出せないままのおれのものがひくりと動いた。
朝の日差しでてらてら光ってる。
ランディはそこを素通りして、

「ひぅ・・・っ・・・ぇ?」
「こっち、慣らさねえと入らねえだろ」
「そんなとこ、きたな・・・い」

ランディは構わず指を第一間接まで入れてくる。

「い、痛っ」

おれが呻くと、ランディはすぐさま手を引っ込めた。
したり顔で、ランディは言う。

「先に進むって、こーゆうことなんだぜ?」

怖かっただろ?そう言ってランディは俺の頭を撫でる。
じんわりと思いやりが伝わってくる。

「その・・・ランディ」
「すぐにってのは、無理だろ?」
「・・・そう、だな」
「でも、代わりに俺も観念したよ」

ぎゅうっと、抱き寄せられる。

「お前を信じる。俺はお前を大切にしたい。他の何より・・・好きだ、ロイド」
「あ・・・」
「ちょいとクサかったか?」
「そんなこと、ない。嬉しい!ランディ・・・その、すごく怖かったろ、今の台詞」

そろそろと様子を見上げると、ランディはくすくす笑っていた。

「ああ、緊張したな」
「ありがとう・・・」
「馬鹿、泣くやつがあるかよ」
「はは、そうだよな」

昨日はランディだって泣いていたくせに。
そう思ったがすぐにそれは胸にしまった。

ランディには分からない部分が多い。
行動が唐突で乱暴だったかと思えば、それが思いやりだったり
なんだかんだで、俺よりお人よしだったり
何より、おれを大切にするなんて言ったり。
おれだって男なのに、大切にしたいなんて、嬉けれど笑ってしまう。
でもそれがランディも知らない彼の一面なんだろう。
これからそんな一面を少しずつ、薄皮をはぐように見て行きたい。
これまでの人生で見せられなかった彼の一面を。

おれの愛しい人。
どうか色んな顔を見せていけますように。



 
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