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ランディの様子がちょっとおかしいような気がする。
変なこと言ったかもしれない。
やっぱりきれいって言ってからかな。
おれが近づくと、どうしてだか、距離を取られるようになった。
「ロイドさん、頼みます」
「よしきた!」
ティオのアーツが命中した瞬間、おれのトンファーで敵に留めの一撃。
ばしゅっと音がして、敵は散り散りになった。
「やったわね!」
エリィが歓声を上げた。
マインツ山道の手配魔獣を蹴散らして、一息つく。
飛び散ったセピスを回収するためにみんなその場でしゃがんでいた。
(火属性のセピスが足りないんだよなあ、こいつは土属性ばっかりか)
そう思いながら、ちょいとセピスに手を伸ばすと、ふと手がかち合った。
「あ、悪ぃ」
ランディはへらっと笑ってそそくさと別の場所に移ってしまった。
「あ・・・」
(最近、おれ、避けられてる?)
そう思うようになったのは、先日のカエル事件から。
(やっぱ、気に障ったかな、きれいって男に言うことでもないし)
「よしっ」
一人気合を入れると、周りの皆が一斉にこっちを見た。
「何がよしっなんですか?」
「いや、はは、・・・なんでもない」
ティオの視線は冷静でちょっと痛かった。
そしておれが何を決心したかといえば、当然、ここはランディと膝を突き合わせて、ということである。
ちょっと遠くでセピスを拾いながらエリィに冗談を言っては呆れられている。
(パッと見ると、普通なんだけどな)
ランディはおれに対しても、周りが変に思わないくらいに普通だ。
たぶん、お互いしか感じない感覚だろうけど。
ランディには避ける理由が何かあるはずだ。
「じゃあこの辺で撤収しようか」
「はい」
「ええ」
「おう」
「バス乗ってく?それとも徒歩で行く?」
「ちょっと疲れたからバスで帰りたいところね」
「OK、じゃあマインツまで行こう」
途中弱い魔獣も少し掃討しながらマインツまで歩く。
その道すがらも、ランディは後ろの方で、おれは前。
以前なら気にしなかったかもしれないのに、この距離がどこか悲しい。
「ロイドさん、ランディさんと何かあったんですか?」
「え゛?」
ティオは横に並ぶとひそっと聞いてきた。
「余計なお世話でしたか」
「い、いや、そんなことは・・・」
「すみません、差し出がましい真似をしました」
「いや!良いよ、ティオはおれ達の間に何があったと思うんだ?」
「・・・お二人の波長が、いつもと違う気がします」
「それは、・・・うん、ティオには隠せないか。実はさ、最近、おれランディに避けられてるみたいなんだ」
ぼりぼりと頭をかく。
ティオの勘の良さは折り紙付だ。
ここまで言えば、何かヒントがもらえるかもしれない。
「そうですか。・・・私にはランディさんが何を考えているのかは分かりませんが、迷い、のようなものを感じます」
「ランディが、何に?」
「さあ、それは分かりかねます」
「そっか・・・」
「ただ、お二人の波長の乱れ、ランディさんの迷い。ロイドさんが関係していることは間違いないでしょう」
マインツにつくと、ティオはそう言ってエリィの傍に行ってしまった。
車内は雑然としているが、隣が気になってそれどころではない。
エリィの隣に座ろうとしていたランディを無言でけん制したティオは凄いと思う。
座る前にランディはいつものようにへらっと笑って見せたが軽口の一つも叩き始める頃合になっても、窓の外を眺めたまま、何も喋らない。
埒が明かないとばかりに少しずつ話しかけてはみるが、どこか上の空だ。
それに少しばかり違和感を感じる。
嫌われて避けられているのなら、もっと険悪な感じになるか、ランディなら逆に笑っているかもしれない。
それが、まるであえて意識をどこかに飛ばしているような感じだ。
(おかしいけど・・・、これは何でなんだ)
まさか変な薬でも飲まされたんじゃないだろうか、とちらりと浮かぶ。
いや、グノーシスみたいな反応ではないし、一般的な薬物の反応でもない。
だとしたらやはりランディの心の問題だろう。
座席の後ろを見るとティオとエリィは安らかに寝ている。
これなら、聞けるかもしれない。
「ランディ、あのさ」
「ん?」
「変なこと聞いたら悪いんだけど」
「ああ」
「おれ、何かした、かな?」
するとランディが我に帰ったようにビクッと身をすくめた。
振り向いた目には当惑が浮かんでいる。
久しぶりに、真正面から目を見てもらった気がした。
「お前が?何したって?」
「い、いや、だからおれ、ランディの気に触るようなことしたかなって」
「なんでそう思う?」
「質問に質問で答えるのはずるい」
「はは、悪い。んーそうだなあ、・・・したな」
ランディは窓枠に頬杖をついてにんまり笑った。
そしてまた窓の外に目をやる。
「や、やっぱり!」
「でも、嫌だったわけじゃねえぞ」
「じゃあなんで最近おれのこと避けてるんだよ」
「避けてねーよ」
「避けてる」
「頑固だな、ジジイかお前」
そこまで話して、ふと笑いがこみ上げてきた。
「はは・・・、」
「何が可笑しいんだよ」
「こんないつも通りの会話も、久しぶりで、嬉しくてさ」
「いつも通りの会話ってなんだよ」
「他愛のない会話。ランディがおれにツッコミを入れてくれてさ、どうでも良いことで張り合ったり、そんなの」
「へえへえ、そうかい」
「ランディは気づいてないかもしれないけど、おれ、寂しかっ・・・」
すると、ランディは人差し指を口元に寄せてきた。
「それ以上言うな、お前恥ずかしいんだよ」
よく見るとランディの顔が若干赤くなっている。
ランディでもこんな顔するのか、と嬉しくなった。
「そうかな?」
「これだから天然は・・・。おれの中にも易々と入ってきやがる」
「え?」
「なんでもねーよ。それよりまあ、悪かった。避けてたのは認めてやる」
「あ・・・」
「でも理由は聞くな」
「なんで」
「聞きたいか?」
「そりゃあ、聞きたいに決まってるだろ」
ランディは唇にあてがっていた人差し指を唇に擦り付ける。
一瞬いつになく切羽詰った目をして、おれを見た。
「んじゃ、今夜おれの部屋に来いよ。美味い酒でも飲みながら聞かせてやる」
そう言った時にはいつものへらへらとした笑いを浮かべたランディだった。
おれにはランディの気持ちが分からない。
へらへらしたり、急に真剣になったり。
謝ったかと思えば、理由は教えてくれなかったり。
猟兵団にいた頃のことや、警備隊にいた時のこと、過去のことを知っているのに、まだまだランディには見えないものがたくさんある。
おれは、それを知りたいと思う。
放ってはおけない何かが、そこにはある。
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