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2階から1階に降りたところで入ってくる陽の強さに目をしかめた。
夕暮れが一層濃く、保健室とすぐ脇の昇降口を照らし出している。
通る生徒は一人もいない。静寂が不気味さに感じられるいつもと違い、今日は自分の鼓動がどれだけ跳ね上がっているかよく分かるだけだった。
走って上がった息を押さえながら、恐る恐る保健室の扉近くに立つ。扉に手をかけようとして、聞こえた声に手を止めた。
望美の声は高くてよく通るけれど、弁慶の声は少しくぐもっている。聞こえづらくて、扉に耳を寄せた。



───その瞬間、床に置いた鞄を蹴飛ばす。



(やば・・・!)



側面を蹴ると、しっかりした革鞄は良い音を出してくれる。
中に教科書なんかさっぱり入れてなかったものだから、空洞に響いてしまった。きちんと勉強道具くらい持ち帰れば良かったものを、と、こんなところで後悔する。
保健室の中の様子なんかさっぱり分からないが、中の二人が息を詰めてこちらを凝視しているような気がした。
冷や汗が伝ってくるのに、足はさっぱり動かない。
硬直していると、案の定、扉が開いて中から呆れたような顔の弁慶が現れた。



「・・・・本当に・・・、君って案外単純なんですよねえ」
「・・・・・は?」



唐突に弁慶はそう零した。少し溜め息をついて後ろを振り向く。
視線の先にいた望美は得意気に笑っているが、おれを見ても何も言わない。
その様子は、けれど、おれに疎外感を与えるものではなかった。
望美がさっき教室で見せたような雰囲気は、一切無かった。


呆然と立ち尽くしていると、弁慶が鞄を拾い上げる。



「入りなさい。鞄を持ってきたんでしょう?」
「う、うん、」



別にそういうわけではなかったが、つい頷いてしまった。
弁慶の仕事をしている机の脇に椅子を引っ張ってきて座ると、すぐ脇にいた望美が立ち上がった。



「じゃあ、センセ。ありがとうございます、」
「いいえ、こちらこそ」
「あ、あれ、望美?」



鞄を受け取ると望美は入れ替わるように去っていく。



「望美?」



弁慶に言う事があるんじゃ無いのか?
さっきの話、違うのか?
それとももう話済んだのか?あの短時間で?



「ヒノエくん、」



望美はじいっとおれを見る。



「素直になるともっと可愛いよ、」



くすくす笑う声と共に、扉の向こうに消えた。
望美の振った手の残像が目に張り付いて、消えない。

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