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体育祭が終わる頃になって、学校恒例の『お祭り』が始まる。
生徒間だけでの後夜祭。教師も伝統的なものだからか目を瞑っていてくれる。
夕暮れ時の体育館にお目当ての人を探して、生徒が出入りを繰り返していた。



実行委員で最後まで後片付けに追われた望美とおれは教室からその様子を覗き見る。
見知った顔がきょろきょろしながら体育館に入っていく。
皆同じ目的なのだから今更恥ずかしがる必要も無いだろうに、図体ばかりはでかい男子生徒がそうしているのが少し可笑しい。

「ヒノエくん、行かないの?」
「おれは良いよ」



お互い体操着から制服にもぞもぞ着替えていると、望美がそんな事を聞いてくる。
視界の端に谷間のきちんとある彼女の胸が見える。最近の高校生は発育が良いですよねえなんてエロオヤジよろしく弁慶が言っていたが、その例に漏れず、彼女のスタイルは良い。
自分の無い胸を見下ろして少し嫉妬した。



「なんでー?気になる人いないの?」
「望美は?どうなんだよ。将臣?譲?それとも敦盛かな」



冗談めかして尋ねると彼女は小さく笑う。少し頬が赤くなったと分かったが、夕暮れ時だったのでからかわないでおいてやる事にした。



「ヒノエくんだよ、」



明らかに冗談の声色に顔を上げるとやはりくすくす笑っていた。
望美がスカートのファスナーを上げる隙間から淡いピンクの下着が見える。自分の下着が何の飾り気も無いブルーだった事や、そういえば望美のように上下揃いで着けていなかったことが、何となく彼女と自分の女らしさの違いのようで、少し焦った。



「へー?おれ?嬉しいね。・・・で、誰?」
「・・・・弁慶先生、」



え、と声が漏れそうになるのを堪えた。シャツのボタンを止めている最中だったから、表情が固まったのは見られないで済んだはずだ。



「え・・・と、なんで?」
「何でって?」



少し上目遣いに見ると、望美はきょとんとする。まずい質問をした気がして目をそらした。
こちらの様子を気にする風でもなく、もう着替えた彼女は鞄の中からブラシを取り出して髪をとかす。更に鏡を出してリップを薄く塗っていた。
ツヤが加わった唇に満足気な顔をして、望美はそれらを鞄の中にしまいこんだ。
自分の鞄の中は、ブラシもリップも入っていない。鏡だけ、辛うじてあった気がするがほとんど見た事が無い。
背中に、じわりと焦りが上ってくる。



「・・・・ヒノエくん?」
「え、」
「どしたの?黙っちゃって」
「あの、さ。てっきり、将臣かなって、思ってたから、何も聞いてなかったし・・・、驚いたんだよ」



望美は椅子に座って、着替えているおれを眺める。



「ヒノエくん、先生の姪でしょ?だから、言いづらくて」



だから、という辺りが腑に落ちない。普通は遠慮しないものじゃないのか。身内だからこそ知っているものがあるだろうに、望美はなんで遠慮するんだろうか。
ふと、望美が知っているんだろうか、と慌てる。



「おれ、望美がその気なら協力するよ、」
「・・・本当?」
「うん、」
「ありがとう・・・でも、いいよ」
「え、」
「ずるい子に協力して貰いたくないの」



机に頬杖をついて、望美は笑った。
言葉の真意は何通りにも解釈できてしまう。
自分の後ろめたさに心臓がばくばくと音を立てる。
平静を装うとしても指先が震える。
シャツのボタンの最後が上手く止められず、投げる。
胸元をくつろげたまま、おれは望美の向かいに腰を下ろした。



「ずるいって・・・?」
「・・・。先生のとこ、行ってくる」



望美は立ち上がる。
声をかけようか迷って教室のドアの方を見つめていると彼女は振り返った。



「鞄、よろしく。戻ってくるから」



それは暗に帰るな、という事だった。
ドアの閉まる音の優しさが、さっきの彼女の言葉と裏腹で心がざわつく。



弁慶とおれの関係は世間的に明るいものではない。
別に構わないと思っているけれど、さすがに叔父と姪で大っぴらには出来ない。
だから誰にも言っていないのに、望美はまるで知っているようだった。



知っているから、あんな事を言ったのだろうか。それとも、知らないけれど他の何かを言っているんだろうか。
後ろめたい事があるから真実はうやむやになる。




「あいつ・・・、望美に手出さないよな・・・」



いかにも女らしい望美。
エロオヤジの弁慶。
不安になる。



そう言えばおれが迫った時だって、散々渋ったくせに結局据え膳を頂いたんだと思い出す。
別に弁慶が他の女とどうのこうのなるのは良い。どうせこんな関係ずっと続けるわけにいかない。
だけど望美は駄目だ。とにかく駄目だ。



それが、友人を大切にする綺麗事のお題目じゃなく、ただの嫉妬だというのは気づかない振りをした

 



望美の鞄と自分の鞄を抱えて弁慶のところへ向かう。
走りながら、走っている理由が分からなくなった。
急いだところで、望美が保健室に行くならとうに着いているはずだ。言いたい事があったら望美はさっさと切り出すはずだ。



理性と感情は一致しない。
自分が嫌だと思う自分が押さえ込めない。
別に弁慶を縛ろうなんてつもりはないのに、心の中は醜いくらい嫉妬でいっぱいだった。



こんな自分は知らない。

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